チャイナ・ウォッチャーの視点

2015年9月6日

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西本紫乃 (にしもと・しの)

北海道大学大学院公共政策学連携研究部付属公共政策学研究センター研究員

1972年広島県生まれ、広島大学大学院博士後期課程単位満了退学、元外務省専門調査員(在中国日本国大使館)。著書『モノ言う中国人』(集英社新書、2011年)。

 7/7、9/18、12/13。日本人はあまり知らないが、中国では日中戦争の記念日として広く認知されている日だ。それぞれ盧溝橋事件、柳条湖事件、南京事件が起こった日である。しかし2013年以前は中国の国民でも9/3が何の日か答えられる人は少なかったのではないだろうか。

紫禁城(iStock)

 中国では2014年から突然9/3が抗日戦争に勝利した記念すべき日となった。そして戦勝70周年にあたる今年、国家の威信をかけた大閲兵式が挙行された。「9.3大閲兵式」の意味と意義はじつのところ明確ではない。そこには習近平政権のイデオロギーと内政や外交についての矛盾を含んだ意識や思惑が込められている。

“中国”と “中華人民共和国”の同一視
中国の歴史を前面に押し出した演出

 「9.3大閲兵式」では、中国の指導者らが天安門に登る前に、習近平夫妻と来賓の各国首脳らとの挨拶が行われた。象徴的だったのは、天安門の後ろに広がる故宮(元の紫禁城)を背にした演出が行われたことだ。さすがに大和殿で行われたりはしなかったものの、かつての中華帝国の皇帝を彷彿とさせる印象を見る者に与えた。

9.3大閲兵式の習近平国家主席

 共産主義のイデオロギーの中で封建的なものやブルジョア的なものを否定してきたという経緯から、中国共産党は歴代王朝とイメージを重ねられることを嫌ってきた。しかし、胡錦濤政権の末期から中国な歴史や伝統の再評価の傾向がみられ、習近平は国家主席に選出された直後から「中国の夢」、「中華民族の偉大な復興」というコンセプトを打ち出し、伝統回帰の方向性を示している。

 また、2014年10月には中央政治局の勉強会では「歴史的な国家管理」がテーマに取り上げられたが、習近平はこの勉強会の席上で次のように述べている。「今日の中国を管理するには、我が国の歴史と伝統文化についてしっかりと理解し、古代の国家管理からアイディアを模索しそれを積極的に総括しなければならない」、「他国の国家の政治理念や制度を模倣するのではなく、我が国の現実的な環境を出発点とする」。

 あたかも歴史を逆走するような印象を受けるこの発言だが、集団指導体制から国家主席への権限集中、「法に基づく国家管理」と銘打った「法を借りた国家管理」の推進、マスメディアの統制強化や弁護士や活動家の取締りといった現政権の一連の動きも、こうした習近平の国家統治のビジョンがベースになっていると考えると、とても納得がいく。

 共産党が統治する“中華人民共和国”を伝統“中国”と重ねあわせる。政権と民族・国家を同一視することで建国66周年の国が戦勝70周年を祝うという矛盾が矛盾でなくなるというわけだ。日本に対しては軍国主義的、右翼的な勢力と一般国民の「二分論」で日本政府に対する厳しい非難を続ける中国共産党と中国政府だが、自国については「融合論」で様々な矛盾を説明する姿勢が鮮明になりつつある。

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