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2015年10月9日

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磯山友幸 (いそやま・ともゆき)

経済ジャーナリスト

1962年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。87年日本経済新聞社に入社し、東京証券部、フランクフルト支局長、「日経ビジネス」副編集長などを務める。11年からフリーに。熊本学園大学招聘教授。近著に『国際会計基準戦争 完結編』(日経BP社)。

 TPP(環太平洋経済連携協定)が、交渉参加12カ国の間で10月5日、大筋合意に達した。工業品や農産物をはじめ、知的財産権や環境保護に至るまで幅広い分野でのルールが統一されることになる。工業品の関税は99.9%が撤廃されることになり、世界のGDP(国内総生産)の約4割を占める巨大な経済圏が誕生することになった。

 TPPはTrans‐Pacific Partnershipの略とされるが、当初から様々な日本語訳が当てられてきた。環太平洋戦略的経済連携協定というものもあったが、最近は環太平洋経済連携協定や環太平洋パートナーシップ協定といったところで落ち着いている。

大筋合意して会見に臨む各国代表(Xinhua/Aflo)

貿易協定ではなく、共同体を目指す

 経済連携というと貿易ルールを定めた協定のように感じるが、この協定の本質は単なる貿易協定ではない。加盟国がパートナーシップを組むこと、つまり共同体になることを目指している。環太平洋共同体構想と言った方が将来像を示しているかもしれない。

 2013年に安倍晋三内閣がTPP交渉を決めて以降、交渉を担ってきた甘利明・経済再生担当大臣は10月5日の記者会見に臨んで、こう発言している。

 「われわれのルールが世界に広がるに従って、世界がより豊かで相互依存関係が強くなる。つまり、これは経済の安全保障であると同時に、間接的に、安全保障にも、地域の連帯と平和にもつながっていく重要な試みだ」

 経済が一体化することで相互依存関係が深まり、安全保障や各国の連帯つまり「政治の統合」へと進んでいく。EU(欧州連合)が経済の一体化から入って政治統合へと歩みを進めているのと同じく「共同体」を模索していこうというところに本質があると見るべきだろう。

 2006年5月にシンガポールとブルネイ、チリ、ニュージーランドの間で発効した地域の自由貿易協定だったTPPに、米国が参加を表明して交渉を始めたのは2010年3月のこと。日本では2009年に民主党が政権を握り、鳩山由紀夫首相が「東アジア共同体構想」を打ち出していた。中国や東南アジア諸国と共に経済圏を構築するというもので、通貨の統一なども含んでいた。

 EUは加盟国を徐々に増やし、共通通貨ユーロの採用国も増加。共同体としての地歩を固めていた。そこに「経済成長のエンジン」とみられていたアジアまでが経済圏を築けば、世界最強を誇って来た米国経済の孤立化は免れない。2008年のリーマンショックによる米国金融界の凋落で、米国の地盤沈下が深刻さを増していた時期に重なった。

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