2024年4月20日(土)

WEDGE REPORT

2015年10月17日

 東京の下町で絶版車を含む世界の自動車修理をなりわいにしている「両国ホンダモーター」の頑固オヤジ小野田博さんに、世界を揺るがせたフォルクスワーゲン(VW)のディーゼル車排ガス不正問題についてインタビューした。さまざまなクルマの修理と調整をおこなってきた小野田さんは、この問題をどう捉えたのか。

Defeat Deviceの正体とは

まず、気になるDefeat Device(ディフィートデバイス/無効化機能)と呼ばれるプログラムについて聞いた。

小野田 VWのクリーンディーゼルはボッシュが製品化したコモンレールシステムを採用しています。これは高圧にした燃料をECU(電子制御ユニット)でインジェクターから噴射、燃料を微粒子化して完全燃焼をうながしPM(粒子状物質)の発生を抑える仕組みです。

問題となったTDIエンジン(Getty Images)

 一言に高圧と言っても、深海2万メートルの水圧に匹敵する1100〜2200barという超高圧で、この圧力に耐えるための加工精度、特殊な構造を実現したのがボッシュです。コモンレールシステムは高圧サプライポンプ、圧力センサ、圧力リミットバルブ、高圧インジェクタ、噴射制御ユニットなどから構成され、これら全てがボッシュのパーツで構成されています。

 制御プログラムもボッシュが作成しています。プログラムは国別及び車種別に用意されECUのEP-ROMにクルマが完成してから書き込んでいると思います。Defeat Deviceは、シャーシダイナモ上でおこなわれる排ガス試験の時だけ、正規のプログラムを動かし、クルマが公道上を走行するときは、これを無効にします。なぜこんなことをするかと言えば、ディーゼルエンジンで気持ちよく走ろうとすると、有害物質の排出レベルが上がるからです。

NOxとPM、対策が面倒なのはNOx

ディーゼルエンジンの排ガスで規制される有害物質はNOx(窒素酸化物)と、PM(粒子状物質)である。NOxはNO(一酸化窒素)とNO₂(二酸化窒素)を意味する。簡単に言えばアクセルを踏むと出るのがNOx、ノロノロ走っていると出るのがPMだ。峠道を気持ちよく走るため激しく加減速をくり返せば、ターボチャージャーが働き過給された空気中の窒素が燃焼、NOxが大量発生する。

小野田 PMとNOxのどちらがやっかいかと言えば、NOxですね。PMはDPF(Diesel particulate filter/黒煙除去フィルター)と呼ばれる装置を使って、集めておいて燃焼させることで除去できます。これに対してNOxは尿素SCR(選択還元触媒)という装置を使います。これは触媒の働きを使うのですが、尿素水のタンクを設けて、適正な量の尿素水を適正なタイミングで噴霧して、排ガスとミックスさせてやる必要があります。

 さらに、例えばタンクの容量15Lで2万キロを走ったら補充するなどのメンテナンスも発生します。VWが採用したボッシュのシステムはこれにLNT(NOx吸蔵還元触媒)を組み合わせたものです。LNTを働かせると燃費は悪化します。Defeat Deviceは排ガス測定試験の時は、尿素水を大量に噴霧してPMを抑え、LNTを正常に働かせていたと思われます。公道走行時には尿素水を控えめにしてLNTも最低限、ターボの吸気量を増やして気持ちよく加速できるようにしたと考えられます。


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