2024年4月20日(土)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2015年10月27日

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 RAND研究所は、米陸軍航空隊(現在の米空軍)が第二次大戦における作戦を分析するために設立し、数値などのデータに基づく科学的な分析手法を編み出したことで知られており、作戦解析(OR:Operations Research)などで実績を挙げてきました。今回の報告書は430頁に及ぶ大作ですが、米中両国の軍事力を測るための様々な要素を科学的に分析したものと考えてよいでしょう。

 本報告書の核心は、主として中国海空軍の近代化の結果、米軍の前方展開態勢が脆弱なものとなり、米中対決の初期段階において中国が一時的に局地的な優位を獲得し、後詰めの米軍が展開するまでの間に軍事的な目標(例えば隣国との軍事衝突で勝利すること)を達成し得るという点にあります。報告書は、これを克服するためにスタンドオフ攻撃能力などの整備を優先すべきであると主張していますが、この点は、2010年に米国防省が公表した統合エア・シー・バトル構想と軌を一にしています。いわゆる第一列島線(南西諸島~南シナ海東部)及び第二列島線(小笠原諸島~マリアナ諸島)を一種の抵抗線とする中国の接近拒否能力(Anti-Access/Area-Denial : A2/AD)の影響下で作戦するために、長距離から攻撃できる海上航空作戦能力の整備を急ぐべきである、との主張です。

 また同報告書は、アジアにおける米国の前方展開態勢について、例えば沖縄のように、中国に隣接した固定的な基地に依存することの危険性を指摘しています。現に米軍は、沖縄を含む在日米軍基地及び在韓米軍基地に加えてグアム及びオーストラリアにおける前方展開基地の整備を進めていますが、RAND報告書の提言を機に、米議会などにおいてこの政策をより徹底するよう求める動きが出てくることも予想されます。

  
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