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2015年10月26日

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小泉悠 (こいずみ・ゆう)

財団法人未来工学研究所客員研究員

1982年生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了。民間企業を経た後、2008年から未来工学研究所。09年には外務省国際情報統括官組織で専門分析員を兼任。10年、日露青年交流センターの若手研究者等派遣フェローシップによってモスクワの世界経済・国際関係研究所(IMEMO)に留学。専門は、ロシアの軍事・安全保障政策、軍需産業政策など。著書に軍事大国ロシア』(作品社)、『プーチンの国家戦略』(東京道堂出版)『ロシアの軍事情報を配信するサイト「World Security Intelligence」(http://wsintell.org/top/)を運営。

 今月初頭にロシアが実施したシリア領内への巡航ミサイル攻撃は、世界に大きな衝撃を与えた。ロシアが冷戦後初めて、中東に軍事介入を行ったことに加え、西側の専売特許と思われていた長距離精密攻撃をロシアが実施し得たこともその背景にはあると思われる。

 実際、今回のシリア介入では、ロシアは巡航ミサイル攻撃に加えて衛星誘導兵器やレーザー誘導兵器を用いた精密攻撃を展開し、依然として西側に比肩する水準ではないにせよ、作戦能力の回復を強く印象づけた。

NCWという新しい軍事作戦の遂行方法

 だが、現代戦においては個々の兵器やその運搬手段の性能だけでなく、目標の捜索・監視、情報の伝達、部隊の指揮・通信等を効率的に実施するためのC4ISR(指揮・統制・通信・コンピュータ・インテリジェンス・監視・偵察)能力が死活的な重要性を有するようになった。このような能力を中心に据えた現代的な軍事作戦の遂行手法は、NCW(ネットワーク中心の戦い)と呼ばれる。

今年夏、モスクワ航空宇宙サロン(MAKS2015)で展示された電子戦システム(筆者撮影)

 2008年のグルジア戦争では、ロシア軍は精密攻撃能力だけでなく、近代的な指揮・通信能力や目標捜索・監視を行う無人偵察機の欠如を露呈し、徹底的な軍改革の必要性が叫ばれる結果となった。

 2014年に始まったウクライナへの軍事介入や今回のシリア介入でロシア軍が旧来型の作戦遂行能力を大きく回復させたことが実証されたが、NCWのような目に見えない領域における作戦能力の進展度合いはこれまでほとんど明らかになっていなかった。たしかにウクライナ紛争では、ロシア軍は強力な電子戦を展開し、ウクライナに送り込まれた米軍事顧問団さえその能力を高く評価するに至ったと伝えられるものの、電子の世界におけるロシア軍の実力はなかなか見えにくい。

 こうした中、9月に実施されたロシアとベラルーシの合同演習「同盟の盾」演習の模様を伝えるロシア国防省の機関紙『赤い星』に、その実態を垣間見せてくれる興味深い記事が掲載されたので紹介したい。

(翻訳)

 オレグ・パチニューク「ハッカーの試みは失敗する」『赤い星』2015年9月15日

 9月16日、ロシアとベラルーシの合同作戦演習「同盟の盾2015」が終了する。両軍が実施した訓練における特徴的のひとつは、航空戦力と電子戦機材の活発な使用であった。軍の通信部隊では、敵のハッカーによるサイバー攻撃の撃退も実施された。

 合同演習「同盟の盾2015」のシナリオは、ロシア及びベラルーシの軍人によって三つの演習場(キンギセップ、ストゥルーガ・クラスヌィエ、カメンカ)で実施された。連合国家地域連合部隊の空挺部隊は、プスコフ州ストゥルーガ・クラスヌィエで任務を遂行した。同地では、プスコフ州に駐屯する空挺師団とベラルーシ特殊作戦軍のスラブの兄弟が限りなく実戦に近い条件下での戦術行動を演練した。

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