シリアに介入するロシア
その複雑な背景と思惑


廣瀬陽子 (ひろせ・ようこ)  慶應義塾大学総合政策学部教授

1972年東京生まれ。専門は国際政治、コーカサスを中心とした旧ソ連地域研究、紛争・平和研究。主な著作に『旧ソ連地域と紛争――石油・民族・テロをめぐる地政学』(慶應義塾大学出版会)、『強権と不安の超大国・ロシア――旧ソ連諸国から見た「光と影」』(光文社新書)、『コーカサス――国際関係の十字路』(集英社新書)【2009年アジア太平洋賞特別賞受賞】など。

解体 ロシア外交

紛争、エネルギー、政治、経済など様々な外交カードを所持し、それを絶妙なタイミングで切るロシア。日本の隣人でありながらその内側がなかなか見えない大国に、不気味な印象さえ抱く。ロシアの外交、そしてその動きの背景を、ロシアと周辺国事情に詳しい著者が読み解く。

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9月末以降、ロシアのシリアへの介入はそのレベルを増幅しつつあり、米国などの反発が高まっている。

 ロシアがシリアに軍を展開し始めたのは、8月半ばからであると言われている。ロシアサイドは、最初は、「シリアのアサド政府に対する補給、人員育成、国民向け人道支援」がその目的だと主張していたが、9月上旬にはロシア軍がアサド政権軍を支援するために戦闘に参加しはじめたという報道が出て、また9月半ばにはロシアがシリア国内の空軍基地に砲兵部隊とT90戦車7台を派遣したこと、またロシアが約1500人収容可能なプレハブの建築物を設置したとも報じられた。加えて、ラタキア近くに新規の航空基地も建設し、多くの戦闘機やヘリコプターも導入された。

 そして、9月30日からロシアはシリア領内での空爆を開始し、日増しに攻撃のレベルは高まり、巡航ミサイルによるカスピ海からの攻撃やクラスター爆弾の使用までが報じられるようになった。ロシアは、ISIS(イスラム国)に対する攻撃であると主張しているが、欧米諸国などはロシアの攻撃はほとんどが穏健な反体制派であり、民間人にも死傷者が出ているとして激しく反発している。また、トルコも領空侵犯されたと抗議するなど、諸外国からの批判も増えているが、ロシアはアサド大統領の要請およびロシア連邦議会の委任に基づくものであり、攻撃しているのはあくまでもISISないしダーイシュであるとして、その正当性を強調し続けている。

 ロシアの介入に絡む要素はかなり複雑で、その理由は簡単には説明出来そうもないが、本稿では、筆者が9月後半にロシアの専門家にインタビューした内容なども踏まえ、より多面的にロシアの介入の背景と思惑を考えていきたい。

画像:iStock

ロシアがシリアに介入する理由

 ロシアがシリアに介入し、アサド政権を支援する背景はかなり複雑である。

 第一に、従来的な目的がある。盟友アサドを守り、ロシアが旧ソ連圏外で唯一保持しているシリアのタルトス港の軍事基地を保持し続けたいということだ。同基地は、ロシア海軍が地中海におけるプレゼンスを維持するために極めて重要だ。この点については、2012年の拙稿「ロシアがシリアを擁護する3つの理由」(http://wedge.ismedia.jp/articles/-/2027)を参照されたい。

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「解体 ロシア外交」

著者

廣瀬陽子(ひろせ・ようこ)

慶應義塾大学総合政策学部教授

1972年東京生まれ。専門は国際政治、コーカサスを中心とした旧ソ連地域研究、紛争・平和研究。主な著作に『旧ソ連地域と紛争――石油・民族・テロをめぐる地政学』(慶應義塾大学出版会)、『強権と不安の超大国・ロシア――旧ソ連諸国から見た「光と影」』(光文社新書)、『コーカサス――国際関係の十字路』(集英社新書)【2009年アジア太平洋賞特別賞受賞】など。

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