9月末以降、ロシアのシリアへの介入はそのレベルを増幅しつつあり、米国などの反発が高まっている。
ロシアがシリアに軍を展開し始めたのは、8月半ばからであると言われている。ロシアサイドは、最初は、「シリアのアサド政府に対する補給、人員育成、国民向け人道支援」がその目的だと主張していたが、9月上旬にはロシア軍がアサド政権軍を支援するために戦闘に参加しはじめたという報道が出て、また9月半ばにはロシアがシリア国内の空軍基地に砲兵部隊とT90戦車7台を派遣したこと、またロシアが約1500人収容可能なプレハブの建築物を設置したとも報じられた。加えて、ラタキア近くに新規の航空基地も建設し、多くの戦闘機やヘリコプターも導入された。
そして、9月30日からロシアはシリア領内での空爆を開始し、日増しに攻撃のレベルは高まり、巡航ミサイルによるカスピ海からの攻撃やクラスター爆弾の使用までが報じられるようになった。ロシアは、ISIS(イスラム国)に対する攻撃であると主張しているが、欧米諸国などはロシアの攻撃はほとんどが穏健な反体制派であり、民間人にも死傷者が出ているとして激しく反発している。また、トルコも領空侵犯されたと抗議するなど、諸外国からの批判も増えているが、ロシアはアサド大統領の要請およびロシア連邦議会の委任に基づくものであり、攻撃しているのはあくまでもISISないしダーイシュであるとして、その正当性を強調し続けている。
ロシアの介入に絡む要素はかなり複雑で、その理由は簡単には説明出来そうもないが、本稿では、筆者が9月後半にロシアの専門家にインタビューした内容なども踏まえ、より多面的にロシアの介入の背景と思惑を考えていきたい。
ロシアがシリアに介入する理由
ロシアがシリアに介入し、アサド政権を支援する背景はかなり複雑である。
第一に、従来的な目的がある。盟友アサドを守り、ロシアが旧ソ連圏外で唯一保持しているシリアのタルトス港の軍事基地を保持し続けたいということだ。同基地は、ロシア海軍が地中海におけるプレゼンスを維持するために極めて重要だ。この点については、2012年の拙稿「ロシアがシリアを擁護する3つの理由」(http://wedge.ismedia.jp/articles/-/2027)を参照されたい。