ロシアは当初、ISISに対する空爆しか行わないと主張していたが、諸外国はISISに対する攻撃はほんのわずかで、ほとんどの空爆は欧米が支援してきた反アサド勢力に向けられており、多くの一般市民が死傷しているとロシアを激しく批判している。ロシアないしロシアの支援を受けたアサド政権軍の攻撃では、国際条約で使用が禁じられているクラスター爆弾も用いられており、ロシアに対する批判の声は日に日に強まっている。
カスピ海からシリアに空爆
なお、ロシアの世論調査機関であるレヴァダセンターによれば、ロシア国民の70%は空爆に賛成し、政府の方針を支持している。しかし、地上戦には反発する意見が多いという。
だが、10月7日には、ロシアの対シリア政策は空爆を超えて、新たな段階に入った。ロシア海軍がカスピ海に展開しているフリゲート艦からシリアに26発の巡航ミサイル攻撃を行ったのである。数発は上空を通過するはずのイラン、イラクに落ちたという報道もあるが、ほとんどは約1500キロ離れたシリアに着弾したという。ロシア側はアレッポやラッカのISIS拠点を爆破したと戦果を喧伝するものの、欧米側はやはり反政府勢力が攻撃されたと主張している。ともあれ、ロシアの対シリア政策は、空軍、海軍を含むものとなった。カスピ海は湖であり、黒海と違って、米国などNATOの艦隊が入ってくる可能性が皆無であることから、カスピ海からの攻撃によってロシアの海軍力を誇示した可能性も高そうだ。
ともあれ、現状では陸軍の展開はまだ報じられていない。上述のように、ロシア国民も陸軍の展開は望んでいないが、ロシアの上層部の一部には、陸軍の展開をも主張する者がいるという。そして、一部報道では、ウクライナで展開されていたロシアの精鋭部隊がすでにシリアに送られたという情報もある。加えて、シリアへの派兵を想定して、北コーカサス出身者の軍事訓練が9月上旬くらいから本格的に行われているという報道もある。
仮に、北コーカサス出身者をシリアの戦闘に送り込んだ場合はロシアにとってもメリットが大きい。まず、前述のようにコーカサスの民族は、アラブ地域に多くの同胞がおり、政権が「同胞の救済」をちらつかせれば、積極的に戦闘に参加する者も少なくないだろう。また、ロシア人にとって北コーカサス民族は、歴史的な差別感にくわえ、チェチェン紛争やテロのトラウマもあり、嫌悪の対象である。そのため、シリアでの戦闘でロシア人の青年が死亡すれば国民の反発も大きいが、北コーカサス出身者が死亡してもロシア人が反発するとは思えないということもあるからだ。
以上のことから、今後、そのような限定的な陸上での軍事行動が起こる可能性は否定できない。