ロシアにとってはプランAが理想的だが、それがうまくいかなかった場合に想定されているのが第二の計画、プランBだと氏はいう。全地球的に、米露が勢力圏を分割できなければ、ロシアは米国とその同盟国との切り離し進め、反露連合に楔を打ち込み、米国を弱体化させるというのである。特に、それにより、EUや中東の中での対立を促進し、米国とアラブの同盟諸国や日本との関係を分断するのだという。
また、同時に、ウクライナの現政権が自滅することも待つのだという。シリアの基地は大事であり、シリアに対する支援は継続するが、仮にアサド政権の保護に失敗したとしても、その時はリビアやバルカンのように、全てはアメリカのせいだと責任を転嫁すれば、ロシアの国際的な地位に影響はないというのである。そして、このプランBは実は着々と進んでいるという。その最も顕著な例が、イスラエルだという。イスラエルは近年、ロシアと良好な関係を維持しており、ロシアに兵器も売却しているし、ロシアのウクライナでの行為を一切批判しておらず、制裁にも参加していない一方、ウクライナに軍事支援や武器売却も行っていない。
そのようなイスラエルのネタニヤフ首相が9月21日に軍トップのエイセンコット参謀議長やハレビ軍情報部長、コーエン国家安全保障顧問という軍の重鎮による異例のチームを引き連れてロシアを訪問し、プーチン大統領とシリア情勢を中心とした今後の中東における協力体制について議論をした。氏は、この事実はとても重いと協調した。
実際、イスラエルはシリアには不介入の立場をとっているものの、アサド政権がヒズボラに武器を供給していると批判し、それを理由にシリア上空の制空権の確保を重視してきた。となれば、今後、ロシア、イスラエル、米国の空軍がシリア上空で偶発的に衝突する危険性もあったわけだが、ロシアとイスラエルの間では協調路線が保たれる可能性が高くなる。このことの意味は大きいだろう。
今後の展望
以上述べてきたように、ロシアのシリア攻撃は決して場当たり的なものではなく、長期的な展望に立ち、ロシアの国際的なポジションを高めつつ、かつ内政も安定させ続けるための様々な思惑を反映した上での動きであると言える。
今後の展望は、シリアとウクライナ双方の趨勢にも大きく影響されるし、またロシアがどこまでやれるのかという持久力次第という面も大きい。特に、ロシアが経済難である今、ロシアがやりたいようにできる可能性はそれほど高くないかもしれない。他方、シリアもウクライナも持久戦の様相も呈してきていることから、今後の展望を予測することは現状では極めて難しい。
とはいえ、本稿で提示した要素は今後のロシアの外交を巡る動きを考える上で大きな鍵となるはずである。今後の状況の展開を注意深く分析していく必要があるだろう。
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