筆者は9月に6年振りにロシアに渡航し、その経験を「〈衝撃体験〉ロシア入国時に私を待っていた10時間の取り調べ!丸裸にされるスマホ、パソコン、持ち物…保安局係官は何を念入りに調べたか?」、「〈ロシア極東・シベリアに行ってみて分かったこと〉80年前の戦争は絶賛、ウクライナ戦争には沈黙…1000万円の現ナマに訴える契約兵の募集も」という2本のコラムで披露している。
今回は、ロシア旅行記三部作を締めくくる形で、現地で見た人々の生活振りについて論じてみたい。ただ、渡航から3ヵ月ほど経ってしまったので、最新の関連データを参照するなどして、アップデートしながら議論を進めてゆく。
制裁でロシア国民の生活を苦しめるべきか
さて、2022年2月にウクライナへの全面侵攻を開始したロシアは、先進諸国から広範な経済制裁を適用されている。ただ、経済制裁の常道は、一般市民への人道面での否定的影響を最小限に抑えつつ、ターゲットを絞って最大の効果を挙げることを目指すものである。
対ロシア制裁の場合で言えば、①ロシアに戦費を稼がせない、②ロシア軍および軍需産業にダメージを与える、③侵攻に責任のあるプーチン体制の政治・経済エリートを罰する、という点にこそ主眼がある。公式的には、一般のロシア国民を苦しめることが目的ではない。
とはいえ、我々は内心では、プーチン体制や戦争を受け入れているロシア国民も相応の罰を受けて然るべきだと、感じているところがある。そして、「ロシアの生活が苦しくなれば、国民が駄目出しして、さすがのプーチンも戦争が続けられなくなるのではないか」と、暗黙のうちに期待している。
なので、我々はつい、「戦争と制裁で、ロシア国民の生活は悪くなっているはずだ。いや、そうでなければ帳尻が合わない。そうであってくれ」といった願望思考に陥りがちである。しかし、実際にどうなっているのかは、願望ではなく、あくまでも客観的に分析しなければならない。以下では、9月にロシア極東・シベリアで得た見聞と、様々な指標から、実情を探ることを試みる。
