ガソリン価格は上昇も購入は問題なし
9月にロシアを訪問するに当たり、非常に気になっていたのが、ガソリン不足だった。ロシアでは夏に季節的要因でガソリン供給が不安定化することがあるが、特に今年の夏はウクライナによるロシア製油所へのドローン攻撃もあり、極東などでガソリンの問題が生じていると伝えられていた。ガソリン不足が広がり、現地でタクシーを拾えなかったりすると嫌だなあと心配していたのである。
しかし、結論から言うと、それはまったく杞憂だった。今回周ったロシア極東・シベリアの5都市で、タクシーの運転手たちに訊いてみたが、皆一様に「確かにかなり値上がりはしたが、ガソリンが買えないなどということは一切ない」と答えていた。実際、筆者自身、ガソリンスタンドで行列ができている光景などは目にしなかった。
ロシアは広大で、物流が弱点である。なので、トータルで供給量が足りていても、局所的に商品不足が生じることがある。たとえば、ロシアが実効支配するクリミア半島には製油所がなく、本土からのガソリン供給はクリミア橋経由のタンクローリー輸送が頼りなので、脆弱である。
そうしたことから、実際に25年クリミアのガソリン供給はかなり悪化した。しかし、そうした局所的現象を捉えて、ロシア全体にガソリン危機、ひいては経済危機が迫っていると早合点しない方がいい。
ちなみに、ロシアの「世論基金」という調査機関が、毎週実施している社会調査で、「過去1ヵ月間で特に目立って値上がりした商品は何か?」という質問をしているが、10月以降はガソリンと答える回答者が目立ち、常に40%前後に上っている。
それでも、GlobalPetrolPrices.comというサイトによれば、12月8日現在でロシアにおけるオクタン価95のガソリン価格は0.853米ドルであり、欧州で最も安い水準だ。日本では1.043ドルで、西欧諸国では2ドル前後となっている。ロシアは所得水準が先進国には劣るため、ガソリンの値上がりは一般庶民には重く響くだろうが、今のところ国際比では安い。
食品もiPhoneも入手には困らず
思えば、22年2月の開戦以降のロシアでは、23年終盤には卵の高騰が問題になったし、24年秋から年末にかけてはバター不足が生じ、「バター泥棒が出た」などと面白おかしく伝えられた。しかし、困難に直面するたびに、ロシア政府は卵を緊急輸入するとか、バターの流通に行政指導を講じるなどして、問題を解決してきた。実際、写真に見るとおり、筆者が9月にロシア極東・シベリアの商店を視察した際にも、卵やバターはふんだんにあった。
確かに、25年のガソリン不足はロシア当局にとりわけ難しい対応を迫ったと思われる。ロシア政府は7月28日からガソリンの輸出を一時的に禁止し、結局その措置は年末まで延長され、さらに26年も継続される見通しとなっている。これにより輸出収入が犠牲とはなるが、プーチン政権は国民生活の安定を優先しており、それを維持するためのリソースはまだ尽きてはいない。
