2025年12月17日(水)

プーチンのロシア

2025年12月17日

 食品だけではない。米アップル社はロシアへの公式供給を停止したが、ロシア政府の積極的な奨励策もあって、アップル製品は引き続きトルコ、アラブ首長国連邦(UAE)、カザフスタン、中国・香港、インドなどを経由した並行輸入という形でロシアに流入している。

 写真に見るとおり、筆者が9月にロシアのアップル製品取扱ショップを視察した際には、この秋発売のiPhone17の予約受付をしていた。iPhone17のロシアでの売れ行きは、過去3年ほどの新型に比べて、大幅に伸びたようだ。

iPhoneは買えるが、だいぶ割高ではあるようだ

消費マインドはむしろ改善

 以上で報告したとおり、9月のロシア極東・シベリアの視察で、ロシア経済が崩壊寸前、爆発寸前といった兆候は見て取れなかった。むしろ、ロシアは本当にしぶといなというのが、偽らざる感想である。お金さえ出せば、買えないものはないと言っていい。

 もちろん、問題はまさにそのお金であり、ガソリンを筆頭に値上がりは激しい。レヴァダ・センターが11月に実施したロシア全国調査で、最も憂慮する問題は何かということを複数回答で問うたところ、ダントツで多かった答えは物価の上昇(58%)で、以下、ウクライナでの特別軍事作戦・西側との対立・制裁(31%)、年金受給年齢の引き上げ・年金改革(30%)、住宅問題(29%)、汚職・贈収賄(28%)などと続いた。

 25年に入ってから、ロシア経済には明らかに変調が生じている。ただ、それは主に生産活動で生じており、国民の消費生活は意外に堅調だ。むしろここに来て消費が上向いていることを示す指標も少なくない。

 そこで、ロシア統計局が発表している四半期別国内総生産(GDP)の前年同期比伸び率と、調査機関ROMIRが発表している「消費者信頼感指数」を組み合わせ、グラフを作成してみた。消費者信頼感指数とは、人々が安心して消費にお金を使えると感じている度合いを数値化したものだ。残念ながら消費者信頼感指数は25年第3四半期の数字がまだ発表されていないものの、グラフからは、過去1年あまり、GDPの伸びが鈍化してきたのに対し、消費マインドはむしろ改善に向かっていることが見て取れる。

 言うまでもなく、生産活動がいよいよ行き詰れば、いずれ消費生活も立ち行かなくなる。プーチン政権は強権でありながら、実は生活の安定を求める庶民の声には弱い。

 筆者がロシア極東・シベリアを視察した25年9月の時点では、まだロシア社会は余力を残しているように見えた。プーチンは、大砲とバターという二兎をいつまで追い続けられるのか。それこそがロシア・ウクライナ戦争の行方を占う上で、最大のキーポイントとなろう。

 繰り返しになるが、願望思考は禁物である。だが、注視はしていきたい。 

Facebookでフォロー Xでフォロー メルマガに登録
▲「Wedge ONLINE」の新着記事などをお届けしています。

新着記事

»もっと見る