解体 ロシア外交

2015年10月16日

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 第二に、シリアでの攻撃は、ウクライナ問題から世界の目をそらし、国際的なロシアの立場を有利にするためにモスクワが仕掛けたというものだ。本説は、あまり報道などでは言われていないが、上述のロシアでのインタビューの際に複数の筋から聞いた。特に説得力を持って語っていたのが、ロシアの著名な軍事専門家であるパーベル・フェルゲンガウエル氏である。氏の見解を紹介しよう。

ロシアにとって
ウクライナはシリアより何十倍も重要な存在

 氏は、この動きは6月くらいから始まったという。6月のG7サミットで、G7がロシア石油の輸入禁止やSWIFT制度からのロシアの銀行の締め出しなどを含む、今後のロシアに対する制裁強化策について合意をしていた。それについては、複数のG7外交官から氏に情報がきたことから、当然ロシアの中枢部にも伝わっているだろうという。それらの制裁はロシアにとっては致命的であるため、欧米との緊張を和らげる必要に迫られた。そこでシリアで新たなアクションをとる決断をしたのだろうという。

 ロシアにとって、ウクライナはシリアより何十倍も重要な存在で、今でもウクライナの重要性は変わらないが、戦略的な目的を達成するために、シリアを利用し、将来的にロシアにより都合の良いウクライナの解決策を引き出そうとしているという。しかも、ウクライナ東部への派兵は明らかであるにもかかわらず(ウクライナ領であったクリミアへの派兵は当初否定していたが、後に認めた)、シリアについては堂々とロシアの関与を認めていることは、世界にロシア軍が実際よりも多く展開しているイメージを持たせ、より大きな注意を引く効果も持つと氏は言う。

 氏の説は、広く共有されているものではないが、この説を用いれば、確かに色々な動きを説明できる。プーチンは、6月には中東問題解決のためのプーチン・プランを構想し、過激主義、テロ、ISISとの戦いのために、国際的な拡大連合を構築することを目指し始めた。そして、6月29日にシリアのヴァリド・ムアレム外相は訪露し、ロシアのラブロフ外相と会談し、ロシアはシリアの諸問題を政治的に解決し、テロを排除することで協力していくことを約束し、そのあたりから実際の準備を進めていったと考えられる。

イラン最高指導者ハメネイ氏の直属特殊部隊
との入念なすり合わせ

 他方、7月にはやはりロシアと良好な関係を維持してきたイランのカセム・ソレイマニ少将がロシアを訪問し、相次いで敗北しているアサド政府軍もロシア軍の支援があれば形勢逆転できるとした上で、シリアへの介入を呼びかけ、これを機に介入計画を入念に立て始めたことも明らかとなっている。ソレイマニ少将はイランの革命防衛隊のエリートである海外特殊部隊「エルサレム部隊」の司令官で、最高指導者のアリ・ハメネイ氏に直属しており、隣国イラクでイランが支援するシーア派民兵組織の反政府戦闘の指揮も担当している軍の高官であることから、イランの本気度も伝わってくる。

 また、ソレイマニ少将の訪露の前にはロシアとイランのハイレベルな接触があり、アサド政権に対する支援を強化する必要が議論されていたことや、ハメネイ氏がロシアに特使を派遣し、その上でプーチンはシリア介入を前提としてソレイマニ少将の派遣を要請し、ソレイマニ氏が戦域の詳細を説明したという報道もある。また、7月にはアサド自身も支援を要請していた。いずれにせよ、アサド政権を支援するロシアとイランが、アサドの依頼もあって入念に計画を策定し、介入に踏み切ったことは明らかである。

 加えて、8月頃からウクライナ東部(ドンバス)での戦闘が縮小され、武装解除が進み始めたというのも事実だ。ウクライナからシリアに戦線が動いたといっても間違いではない現実があったのである。

 第三に、シリアからの難民問題が深刻になる中、とにかくシリアが安定することが最優先だという空気が特に欧州諸国の間で広まっていることから、ロシアが武力によってシリアを安定化させれば、欧州からロシアの外交力が評価される可能性が高いこともあるだろう。特に難民問題が極めて深刻な脅威となっているギリシャや東欧諸国では、ロシアの対シリア攻撃を評価する声も実際に大きいという。加えて、とりあえずの安定のためには、アサド政権の継続も黙認される可能性が高く、そうなれば、ロシアの中東戦略の重要な要素が諸外国(主に欧州諸国)から担保されることにもなるのである。

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