ロシアの配慮と懸念
このようにロシアのシリアへの介入は、国民に支持されているが、問題が生じ始めているのも事実だ。アサド勢力は、シリアでも少数派のアラウィ派だが、それはイスラーム教シーア派系であり、大きく見ると、ロシアが当地のシーア派を支持しているように見える。そのため、ロシア国内のスンニ派から政府に対する怒りが高まっているという。そこで、政権側は、諜報機関などを用いて、国内のシーア派とスンニ派の間の対立を煽り、怒りの矛先が政府に向かないように対策を取り始めたという。
また、領空侵犯や後述のようにイスラエルとの接近などでトルコやパレスチナ始め、幾つかのイスラーム系諸国からの反発も当然ある。だが、トルコは領空侵犯には厳重注意をするものの、ロシアとは友好的な姿勢を保っている。これは、ロシアのこれまでの配慮が実を結んだといっても良いだろう。たとえば、9月23日には、モスクワに欧州最大規模の「モスクワ・カテドラル・モスク」がオープンした。
このモスクは、もともと「モスクワ・モスク」として1904年に建立されていたが、2005年から改修・拡大工事が進められていた。そして、1万人を収容できる大モスクに生まれ変わったのである。同モスクには、建設にあたり、プーチンの尽力があったことが高らかと記載されているが、実際のところは、個人やカザフスタン、トルコからもかなりの資金援助があったという。そして、開所式典には、プーチン大統領のほか、トルコのエルドアン大統領やパレスチナ自治政府のアッバス議長も参加し、ロシアがイスラームを重視する姿勢を内外にアピールした形だ。
そこからも、プーチンはイスラームの友達であるが、イスラームでもテロリストは許さないという立場を明確にしたと言えるだろう。
シリアは捨て駒?
ロシアのウクライナにおける「計画」
最後に、もう一度、前述のフェルゲンガウエル氏が主張する議論に戻ろう。氏は、シリアへの介入はウクライナにおける目的達成のためだと主張する。それではロシアはウクライナの今後の展望をどのように考えているのだろうか。
氏は、ロシアはプランA・Bの二つの計画を想定しているという。プランAを氏は、「ヤルタ2」と称する。つまり、第二次世界大戦後の世界の分割について米英ソの首脳がクリミアのヤルタに集って行った「ヤルタ会談」の新バージョンであり、関係国が集まって、ウクライナ問題を含めた全てを話し合い、世界を新たに分割するという構想である。それは、プーチンが9月来主張している、ISISに対する「大連合」とも調和する議論である。