2025年12月22日(月)

バイデンのアメリカ

2025年12月22日

 「AI本格時代」の鼓動は、米国カリフォルニア州立大学バークレー校のキャンパス内でも感じ取れた。しかし、サンフランシスコの無人タクシーのような冷徹で無感覚のロボット文明とは真逆の、生身の人間だけが感じとれる「アナログ・バリュー」も同時にしっかり残っていた。

キャンパス内で行われていた国際ロボ・バスケットボール大会(筆者撮影)

活発なAI・ロボット開発

 バークレー校は、古くから進取の精神に富んだ学園都市として知られ、同じ湾岸地域に近い私立スタンフォード大学と並び、1980年代から始まったシリコンバレーに端を発するIT革命の先導役を担ってきた。

 先端的研究に特に力点が置かれ、1856年大学創設以来これまでに、物理・化学・経済学分野を中心としたノーベル賞受賞者69人を輩出している。2025年物理学賞受賞者3人はいずれも、バークレー校出身者か研究者として在籍した著名学者だ。

 今回、30年ぶりに訪れたキャンパス前のメインストリート、テレグラフ・アベニューは昔同様に、国際色豊かなブティクやカフェが並び、正門のセーザー・ゲートをくぐる学生や大学スタッフたちの服装も、「カウンター・カルチャー」に彩られた1960年代と変わらずカジュアルで奔放だった。

 しかし、学内に入った最初の棟「学生ホール」をのぞき込むと、中では前世紀とは全く異なる風景が広がっていた。

 アジア系を中心とした各国からやってきた機械マニアの中学、高校生たちが、自作の個性ある様々なロボットを両腕に抱えてせわしげに歩き回っており、ほとんどが「国際ロボ・バスケットボール大会」出場者だった。

 特に目立ったのが、台湾からやって来た何チームもの高校生グループ。台湾といえば、最先端生成AIチップ開発を最初に手がけ、今や企業価値で世界一の時価総額を誇る巨大企業「エヌビディア」創業者のジェンスン・フアン氏、熊本県にも工場を進出させわが国でも一躍有名になった最大手半導体受託生産(ファウンドリー)企業「TSMC」創業者のモリス・チャン氏、出身者ではないが台湾系米国人で「エヌビディア」に続く国際的半導体企業「アドバンスト・マイクロ・デバイス(AMD)」のリサ・スー最高経営責任者(CEO)、台湾発のAIベンチャー企業として知られる「Appier Group」(エイピア)CEO兼共同創業者のチハン・ユー氏らの活躍ぶりが世界的にも知れわたっている。

 それだけに、この日の「国際試合」に出場した台湾チームでリーダー役を自認する高校生(17歳)は「今回は遊び用にロボットを作って来ました。これからはもっと勉強して、病院での介護や一人暮らしの老人の話し相手になれるモデル開発をめざし、高齢化社会に少しでも貢献していきたいです」と息を弾ませながら語ってくれた。

 実際、AIはすでに、人間に代わる仕事を着実に代行しつつある。

 タクシー運転手、テレビ・ラジオのアナウンサー、レストランのウェイター、工場の夜警、大学受験生の特訓指導、広告宣伝のコピーライターといった幅広い分野にまで進出しつつあり、職種によっては人間が職場転換を迫られるケースまで出始めた。ここ5~6年のうちに、AI能力はさらに一段と向上し、事務職のみならず、肉体労働中心の各業界製造工場の雇用環境も激変しかねない。

 そして将来的には、人間は主役の座をAIロボットに明け渡し、人間の心、人間らしさまで奪われてしまうのではないか……。そんなぼんやりした不安も社会学、心理学者の間で論じられ始めている。

 しかしだからと言って、人々の日々の暮らし、喜怒哀楽を交えた会話、仲間たちとのぬくもりのある会食が、今後、大きく変質したり消え失せてしまうわけではないだろう。 ロボットたちとの平和的共存は、将来的にも可能ではないか。


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