オハイオ州は米国北東部に位置し、ニューヨーク、シカゴなどから近く、同州内には一大物流センターも存在する。現在109社の日本企業が州内で事業を展開しており、さらに海外からの投資を集めるために民間団体であるジョブス・オハイオが存在する。その中でクリーブランドを中心とする北東部を管轄するチーム・ネオのCEO、マット・ドラン氏とグローバル事業開発マネージングディレクター、ミンディ・マクローリンさんから話を聞く機会を得た。
Q:オハイオのセールスポイントとは?
ドラン 今回来日した目的は、109もの日本企業が事業展開するオハイオの魅力をより広く知ってもらうため。オハイオは歴史的に製造業が盛んな場所だが、現在は先進製造、航空宇宙、自動車・EV、エネルギー化学、金融サービス、食品・農業関連、医療、情報技術・半導体、物流・流通、軍事・連邦政府関連など様々な事業が発展している。北東部だけで700社以上の外資系企業が存在し、6万1000人以上の雇用が生み出されている。
マクローリン 中でも医療は世界的ブランドでもあるクリーブランドクリニックを中心に、世界の先端医療が集まっている。日本の藤田浩之氏(※)とキャノンが提携してクリーブランドクリニックと共に医療技術の展開も行っており、日本との関係性は深い。またホンダはオハイオ州で最大の外資系企業だが、クリーブランド周辺ではブリヂストンの存在が大きい。そのほか信越化学、帝人など、オハイオ州で投資を行い事業展開する日本の大企業も多い。
ドラン NASAが2030年に月に人類を送る、というプロジェクトを進行中だが、オハイオは航空宇宙産業でもボーイング、エアバスの最大のサプライヤーを持ち、NASAの事業所も設置された。様々な製造業やサービスを展開しているため、州内には企業を支えるためのエコシステムが存在し、企業にとって時間とコストを節約できる。
熟練した労働力を提供するためのシステムも存在する。距離的には日本からはカリフォルニアの方が近いかもしれないが、時差はオハイオの方が短く、ビジネスがやりやすい環境を提供できる。オハイオには中西部としては珍しいコンテナ港があり、日本から直接製品を搬送することも可能だ。
さらに、オハイオはニューヨークやカリフォルニアと比べてリビングコストが安く、高水準な教育環境が整い、自然にも恵まれてライフとビジネスのバランスが取りやすい場所とも言える。クリーブランドにはMLBのガーディアンズ、NFLのブラウンズ、NBAのキャバリエと3つのプロチームがあり、マイナーではホッケーチームもあり、博物館や劇場なども多くスポーツ観戦から文化まで幅広く楽しめる。
Q:クリーブランド周辺で注目すべき経済活動とは?
ドラン 州政府の協力もあり、スケーラブルな製造業を目指している。オハイオは米国だけではなくカナダへのアクセスも良く、北米のビジネスハブを置くのにふさわしい条件を備えている。最近の米国では州が補助金を出して大企業を誘致する動きがあり、例えばトヨタと日産はそれぞれ本拠地をカリフォルニアからテキサス、テネシーに移した。
オハイオも2011年ごろから積極的な補助金への財政投入を行っているが、州の規模としてホンダ以外の自動車メーカーを受け入れるのは難しい、という点もあった。しかし労働力の強化やAIの導入などで、より幅広い企業を受け入れる基盤ができつつある。我々のインセンティブは画一的ではなく、各企業に対し「我々が提供できるのはこういうものだ」と提示し、協議を重ねるという柔軟性のあるものだ。
マクローリン オハイオ州の安定性を示すものとして、主要産業が複数ある、という点が挙げられる。そしてそれぞれが非常にバランスが取れており、自動車産業が強くない時でも州の他の部分は財政の健全さを保てている。今後は半導体と電子機器が真の機会となるだろう。インテルはすでにオハイオ州中央部でチップ工場を建設中だ。将来の日本からの投資がこれにどのように適合するかを考えると、先進製造業の分野になるだろうが、日本の技術が米国の市場と結びついてウィンウィンの状況を生み出すような状況になると期待できる。
ドラン 政治的な安定性も大きな点だ。ニューヨーク、カリフォルニアはエキサイティングな場所かもしれないが、政治的な混乱に巻き込まれやすい傾向がある。オハイオはそうしたものから一線を引くことで高価値生産、家族生活、ワークライフバランスに焦点を当てることができる。
