2025年12月5日(金)

Wedge REPORT

2025年8月15日

 地方の時代、と言われて久しいが実際には首都圏への一極集中は進む一方だ。地方の企業、といっても東京資本であったり、地元に本当の意味で富をもたらす仕組みを作り出すのは難しい。そんな中、日本という枠組みを超え国際化を果たすことで地方の存在を再認識しよう、という動きもある。岩手の「いわてグローバル人材育成プロジェクト」はそうした試みのひとつだ。

坂下陽市さん

 2023年に一般社団法人として立ち上げられたプロジェクトで、岩手の実業家である坂下陽市さん(90)は、プロジェクトについて「これから迎える新しい時代を担う若者は岩手の宝だと思います。その若者たちは「地域社会の先導者たれ」との願いを込めています。慶応義塾大学の伊藤公平塾長さんの、一人でも多くの学生を海外へ学びに出したい、という人材育成方針に感銘し国際社会で通用する若者を育成するのが目的です」と語る。

 プロジェクトには三つの柱があり、Visionとしては「岩手の次世代を担うグローバルリーダーを育てたい」、Missionとしては「シニアが岩手の将来を担う志のある若者の人材育成を応援する」、そしてPurposeとして「一人でも多くの若者を海外研修に派遣し、次世代を担う人材を育てる」が掲げられている。現状は年に5回ほどの外部講師を招いてのセミナー、ビジネス英会話教室の開催などだが、フィンランドの国際的スタートアップイベントであるSlushに受講生を参加させることも目的となっている。

いわてグローバル人材育成プロジェクトのセミナーの様子

 受講者は20代から40代までの、生産者から金融、行政、一般企業など様々な分野から参加している。各講師は岩手の現状の問題点、地域発展のためのアイデア、国際情勢などについて語る。参加の動機は様々だが、日本という枠組みを超えて国際ビジネスを目指す生産者もあり、行政側にとってはこうした生の声を聞いてそれをフィードバック、将来の政策作りに役立てる場になっている。

生産者はこれからの岩手の産業の発展に欠かせない存在

 特に生産者はこれからの岩手の産業の発展に欠かせない存在だ。岩手の魅力を伝える本当の意味での地場産業の発展はどのような形で行うべきなのか、若い生産者たちは真剣に考えている。

 まず、地元の地ビール生産で知られるベアレン醸造所。ドイツ語で熊を意味するベアレンは、2003年創業。伝統的ドイツのビール造りを忠実に再現し、ドイツから直輸入した銅釜での醸造を行う。ここで製造部で働く嶌田賢太郎さん(28)は、大学卒業後4年間沖縄のオリオンビールで働き、その後ベアレンに入社した。

「沖縄ではビールといえばオリオン、と地ビールの認知度は広いですが、岩手のベアレンは知名度などもまだまだ。地ビールという意味ではオリオンとベアレンの共通点も多く、岩手の特産品としてのベアレンの将来性に魅力を感じました」という。

 ベアレンは2021年に岩手大学の学内カンパニーと提携し、100%岩手産のホップ、二条大麦を使った「つなぐビール」を発売するなど、地元産業と共に成長することも大切にしている。嶌田さんは「農家、大学の研究機関、流通、消費者をつなぐ経済循環を考えた生産体系です」と語る。農家もベアレンの情熱に理解を示し、徐々にベアレンに回す農産物の量が増えつつある、という。

岩手産原料100%のつなぐビール

 また地ビールはお土産、というイメージがあるが、嶌田さんがビールに感じるのは「人々が集まって楽しむ場を作り出す魅力」であり、様々なビールの楽しみ方を提案している。例えばバレンタイン用にチョコレートスタウトを使ったカカオの香りのビールは、今は広がっているがベアレンが最初に始めた。

嶌田賢太郎さん。後ろの銅釜がドイツから直輸入されたもの

 ビールの広め方としては県民にまず飲んで欲しい、という点から地元の祭り、よ市などに積極的に出店するなどの広報活動を行なっている。県内には直営店もあり、ベアレンを置く飲食店も増えつつある。しかし実情は県内市場は頭打ちに近く、県外競争は激しい、ということもあり、最近では中国をはじめとした海外市場にも目を向けている。中国では幅広いビールの世界・魅力を知ってもらうためのイベント開催やコーヒーブランドとのコラボ、日系スーパーやカフェ、ビアバー等での試飲販売会など、様々な試みも行われている。これらはすべて、出来立ての美味しいビールを飲みに、日本に、岩手に来てもらいたい、という想いで現地パートナーとともに実施している取組みである。 

 ベアレンではビールのほか地元のりんごを使ったシードル、スパークリングワインなども製造。「実は岩手はぶどう生産も盛んでワイン製造は日本で5本の指に入るのですが、中々認知度は低いですね。地元で獲れる果物とのコラボも積極的に行い、岩手のビールブランドとして確立していくのが夢です」と嶌田さんは語る。


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