5月に台湾で開催された「Computex Taipei」で、世界最大規模のICT(情報通信技術)リサーチ企業、米ガートナー社による「2025年に登場する技術とトレンド、トップ12」というイベントが開催された。発表したのは同社のリサーチ部門主任、副社長でアナリストのビル・レイ氏だ。
今年のComputexのテーマは「AI NEXT」だった。昨年はAI PCが主流で、新しいエッジAI搭載型PCに備えた半導体各社のチップの速度競争のような様相だった。しかしAI PCのハードが揃いつつある今、人々の関心は「AIを使って何が出来るのか、どのようなビジネスの変革が期待できるのか」に移りつつある。そんな中で注目を集めるビジネストレンドとは?
(1)ロボットの未来はヒューマノイドではなくポリファンクショナルロボットである
ガートナー社のリサーチによると、2030年までに先進国に住む人々の8割は何らかの形で日常的にロボットと関わることになる、という。ロボットはヒューマノイド型のものが注目を集めているが、実際に必要とされているのはポリファンクショナル、つまり使う側の用途に合わせた様々な機能を持つロボットだという。
ポリファンクショナルとは「人に置き換わる」ものではなく「人をサポートする」ロボットであり、これに伴い人とロボットとの関係を研究するロボトロジーが発展する。ポリファンクショナルロボットに対する市場機会はまさに無限大と言える。
(2)高度なコンピューティングワークロードに対する最大の障害は電力
現在急速に進むAI向けデータセンター建設だが、2026年にはその拡大傾向が3割削減される恐れがある。原因となるのが電力の不足だ。電力に対する需要が大幅に増加する一方で、電力の配分やトランスミッションには多くの問題が内包される。これに対抗するためにはローカル発電、つまり電力の地産地消といった対策が必要となる。
電力のスムースな配分を行うためにはPPA(電力購入契約)やSLA(サービス品質水準合意)が不可欠となるが、一方で価格は今後上昇が予想される。マルチソースの電力供給を長期間の契約及びSLA、価格合意などの元に行うことが必須となる。
(3)アースインテリジェンスの必要性
アースインテリジェンスの市場規模は2030年までに3兆ドルに達する可能性がある。アースインテリジェンスとは文字通り地球全体を観測、予測を行うことで、例えば物流全体、農業、地下資源の特定など様々な要素が含まれる。
アースインテリジェンスに不可欠なのが衛星による観測となる。これは視覚的なものを超えた、ラジオ・熱・SAR(合成開口レーダー)などが必須で、今後こうした衛星企業に対する注目がさらに集まることになる。アースインテリジェンスはあらゆる企業に利益をもたらす可能性があり、ビジネスのあり方そのものに新しいビジョンを切り開く存在になるかもしれない。
(4)リアルデータの未来はセンサーフュージョン
2028年までに、リアルタイムデータ取得の方法として汎用センサーが主流となる可能性が高い。汎用センサーとは、スマート家電などに個別に搭載されたセンサーをまとめ、カメラなしで動作をモニタリングすることにより、スマート環境を整えるというものだ。
これにより複雑な配線やコネクションが省略でき、コストが下がると共に、AIによりこれまで見えなかったものもセンサーで感知することができるようになる。いわゆる生データを取るよりも、汎用センサーによって集められたデータを分析することで、より詳細かつ現実的なデータを受け取ることができる。今後この汎用センサーを使ったビジネスモデルが生まれてくることになるだろう。
(5)アルゴリズムを搭載した半導体チップの隆盛
2030年までに、データセンター向けAIアクセラレーターチップに占めるアルゴリズム搭載型チップのシェアは現在の倍である6割に達する見込み。チップそのものにアルゴリズムを組み込むことにより、チップ面積あたりの情報処理量は現在のGPUを大きく上回り、AIインフラのコストを押し下げることになる。
こうしたアルゴリズムベースのチップは生成AIの利用が大前提となるが、ソフトウェアによるサポートは不可欠となる。企業が今後アルゴリズム搭載型チップを採用するにあたっては、スケーラビリティやソフトウェアサポートなどに注意する必要があるが、その恩恵は多大なものとなる。