米国の「航行の自由作戦」
日本の対応、日米同盟のリトマス試験に?


辰巳由紀 (たつみ・ゆき)  スティムソン・センター主任研究員

キヤノングローバル戦略研究所主任研究員。東京生まれ。国際基督教大学卒業後、ジョンズ・ホプキンス高等国際問題研究大学院で修士号取得。在米日本大使館専門調査員、戦略国際問題研究所(CSIS)研究員などを経て2008年より現職。2012年よりキヤノングローバル戦略研究所主任研究員を兼任。専門は日本の防衛政策、日本の国内政治、日米安全保障関係、米国の対アジア安全保障政策。

安保激変

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10月26日、米海軍駆逐艦が南シナ海のスプラットリー諸島地域で、中国が建築を進めている人口島から12カイリ以内の海域を航行した。中国政府はこれを「不法行為だ」と批判しているが、米国は、「国際法が許す限り、世界中のいつでもどこでも、飛行し、航行し、作戦活動を行う」(アシュトン・カーター国防長官、2015年5月28日シャングリラ会議での演説にて)という従来の立場を崩しておらず、両国の立場は平行線をたどっている。

南シナ海での米国の対応をめぐる米国内の議論は
対中認識の厳しさの反映

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 この米海軍駆逐艦の航行は、目新しいものではない。今回実施された「航行の自由プログラム(Freedom of Navigation Program, FON)」は、米国務省のホームページによると、1979年から実施されており、その目的は「米国は国際社会が持つ公海上の航行および飛行の自由に対する権利を抑制するような一方的行為を受け入れない」という意思を表明することにある。

 南シナ海で中国が建造を続ける人工島から12カイリ以内の海域を航行することで米国は、中国のこの地域での活動を黙認しているわけではないというメッセージを発するべきだ、という議論は、この数カ月、米国内で活発になってきた。9月18日に連邦議会の上院軍事委員会で「アジア太平洋の海洋安全保障」をテーマに公聴会が行われた際に、冒頭でジョン・マケイン上院軍事委員長が行った「(海洋の自由という原則に対する)米国のコミットメントを最も明確に示すのは、南シナ海で中国が領有権を主張するエリアから12カイリ以内を航行して見せること」という発言は、アメリカが今後もアジア太平洋で指導力を発揮し続けるべきだと考える人の多くの気持ちを代弁したものだ。

 特に、共和党議員や保守系論客の間では本稿冒頭で引用した「(米国は)「国際法が許す限り、世界中のいつでもどこでも、飛行し、航行し、作戦活動を行う」という発言をカーター国防長官が今年5月に行ってから、航行の自由作戦がこの海域で行われるまで実に5カ月を有したことに対するオバマ政権の対応の遅さを批判する声がこの1、2カ月強くなってきている。

 前述の9月18日の公聴会では、公聴会が開催された時点で、米海軍が、中国が領有権を主張する海域、特に人工島から12カイリ以内での航行を2012年以降行っていなかったことに対して、マケイン上院議員が「12カイリ以内に入らなければ、実質的に中国の領有権を認めていることと同じではないか」と主張し、公証人として出席したデイビッド・シアー国防次官補やハリー・ハリス米太平洋軍司令官と厳しいやり取りを交わした。

 このように南シナ海における中国の行動により強い姿勢で臨むことを米政府に求める国内の雰囲気は、現在の米国の対中認識が厳しさを増していることの証左でもある。そもそも、上院軍事委員会のアジア太平洋小委員会ではなく、本委員会でアジア太平洋の海洋安全保障をテーマにした公聴会が開催されること自体、めったにあることではない。

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「安保激変」

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辰巳由紀(たつみ・ゆき)

スティムソン・センター主任研究員

キヤノングローバル戦略研究所主任研究員。東京生まれ。国際基督教大学卒業後、ジョンズ・ホプキンス高等国際問題研究大学院で修士号取得。在米日本大使館専門調査員、戦略国際問題研究所(CSIS)研究員などを経て2008年より現職。2012年よりキヤノングローバル戦略研究所主任研究員を兼任。専門は日本の防衛政策、日本の国内政治、日米安全保障関係、米国の対アジア安全保障政策。

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