2024年4月20日(土)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2015年11月10日

 日本の横須賀を母港とする米海軍のイージス艦『ラッセン』が南シナ海に派遣され、中国が埋め立てを行っている人工島の12カイリ内(領海内)を航行し、世界に衝撃を与えたのは10月27日早朝のことだった。

 このニュースを受けて日本では、「ついにアメリカが動いた」、「米中開戦前夜」とネットを中心に盛り上がりを見せた。「航行の自由作戦」と名付けられた米軍の行動に対し強烈な不満を表明する外交部報道官や王毅外相の言葉が伝えられ、さらにメディアでは例によって最も過激な反応を示す『環球時報』の〝報復宣言〟が紹介されると、日本国内では「緊張の度を高めてゆく米中」という見立てが定着していった。

米艦航行に見る「日本人の願望」

 中国の人工島から12カイリ内への米艦航行が日本で大きなニュースとして扱われるのは、日本人の願望が背景にある。尖閣諸島問題をめぐって中国の圧力を身近に感じるようになった日本には、「世界の警察官であるアメリカが、いつかは中国の邪な領土拡張の意図に気付き、本気で中国を攻撃してその頭を押さえ付けてくれる」という〝一挙的〟かつ都合の良い発想が広がっていたからだ。

 米中首脳会談が行われた直後から、日本の検索サイトで「習近平」、「訪米」という文字を入力すると、予測検索の文字として「失敗」が出てくるのは、この願望がいかに強いかを表わしているのではないだろうか。

 日本の問題をアメリカに丸投げする異様さに気が付かない日本では、畢竟、アメリカがいかに「中国を嫌悪」し、「日本を好感」しているかばかりが論点となり、最も肝心な視点がスッポリと抜け落ちてしまうのだ。

 その抜け落ちた視点とは何か。

マイケル・ピルズベリー氏著。邦訳版は『China 2049』(日経BP社)

 いうまでもなく米中両国が、たとえ南シナ海という局地であれ、一度〝激突〟という事態に陥れば、両国がどれほど大きな損害がふりかかり、それに対してどれほどのメリットが得られるのかという計算である。少なくとも私は、日本でこうした冷静な議論が行われるのを見たことはない。むしろ、聞こえてくるのは「アメリカではいま『100年マラソン』という本が売れている」という驚くべき理屈だ。

 米中関係が冷戦期の米ソ対立と決定的に違っているのは、その深い経済分野での結びつきである。とくに中国は、日米貿易摩擦を徹底的に分析した結果として、アメリカ市場に利益を還元することに心を砕いてきた。その結果として日米貿易摩擦に匹敵する米中貿易摩擦といった問題を事前に回避してきたのである。この中国の選択は結果としてアメリカ経済に於ける中国の役割を拡大させる作用を及ぼすことになったのである。


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