ひととき特集

2009年10月25日

»著者プロフィール
著者
閉じる

嵐山光三郎 (あらしやま・こうざぶろう)

1942年静岡県生まれ。作家、エッセイスト。雑誌編集者を経て、執筆活動に入る。88年『素人包丁記』により講談社エッセイ賞を、2000年『芭蕉の誘惑』(後に『芭蕉紀行』と改題。新潮社)によりJTB紀行文学大賞をを受賞。06年、『悪党芭蕉』(新潮社)により泉鏡花文学賞と読売文学賞受賞。近著『旅するノラ猫』(筑摩書房)、『下り坂繁昌記』(新講社)など著書多数。旅と温泉を愛し、1年のうち8ヵ月は国内外を旅行する。

 翌朝は鳥のさえずる声で目をさました。

 葉が光り、山の稜線が朝日を背にしてくっきりと黒い。葉の表と裏の陰影が濃い。コオロギやバッタが飛びかい、風は山峡にふきだまる。

中山仙境を中心とした奇峰連なる夷耶馬溪(えびすやばけい)の1つ、烏帽子岩

 この地は光と闇、極楽と地獄が裏表に入りまじり、そのくせおだやかな浄土である。

 夷谷(えびすだに)温泉入り口から焼尾(やきお)公園の展望台に登ると、ノコギリの刃のような岩山連峰のパノラマが見渡せた。

 眼前左から窓岩(岩に窓形の穴あり)→大仏石(山上に穴あり・樹多し)→中山仙境(ゴツンとした高城(たかじょう)と馬の背。頂がギザギザ)→白岩(一部崩れている)→烏帽子岩(えぼしいわ・奥歯状に尖っている)→七福岩(牙の形をしている)→不動岩(威厳あり)→高岩(ゴツイ岩ばかり)と連なっている。中国仏教の霊地五台山を思わせる景観である。

 山麓には水田が広がり、うねうねとあぜ道が曲って、谷底に瓦屋根の集落がある。

 そこより、船尾さんが峰入り寒行修行をしている無動寺へと向かった。平安時代に開基された天台宗の名刹(めいせつ)で、高さ150メートルの大岩壁を背にして鎮座している。

国東に古来から伝わる奇祭の1つ、旧正月の7日に行われる天念寺の修正鬼会。小松明を振り回して暴れ、里人に加持する赤鬼

 本堂内に案内されると、本尊の不動明王坐像(平安後期)を中心に、左に弥勒菩薩、右に大日如来。三像の右は薬師如来座像で、月光菩薩、日光菩薩が脇侍で座し、仏像大物サミットである。仏像が、信仰の対象として、すぐ目の前に、家族のように坐しているのだった。修正鬼会(しゅじょうおにえ)で使う奇々怪々の面もあった。

 中嶋浩伝(なかじまこうでん)住職(昭和8年生まれ)は筋骨隆々、眼光爛爛、豪快無比の修験道体育会系豪傑であるが、薬師如来像の指が傷んでいるのを「涙を流しつつ拝していた」という慈悲の心の持ち主である。京都美術院へ修復を依頼したところ、仏像の中から平安後期作とした記録が出てきた。国宝・重文クラスの仏像がゴロゴロと鎮座しているのである。

 寺の岩壁には一六羅漢と10人の弟子の像があるが、弟子の1人はどこかへ消えて9人になってしまった。

関連記事

  • PR
  • 新着記事

    »もっと見る