2024年4月25日(木)

ヒットメーカーの舞台裏

2009年11月8日

 最近ではゲーム機のソフトとして、さまざまなアクションゲームが人気だが、エポック社は00年からシリーズを投入。ゲーム機本体がなくても楽しめるタイプで価格も5000円台からと手ごろなことから、ヒット商品となった。03年からは子供用のパソコンでもテレビを使い、大画面による豊かな表現力が支持された。武藤はこうした一連の開発にも参画し、「テレビにつなぐ」商品のノウハウを蓄積した。地球儀との組み合わせの商品企画に着手して間もなく、地理情報が音声で流れる「しゃべる地球儀」とも言うべき製品が登場、自分の企画の方向性にも確信がもてた。

 「たまたまそうなった」(武藤)のだが、08年3月には文部科学省の新学習指導要領に社会科の授業で地球儀を活用することが盛り込まれ、販売を後押ししてくれる材料も出てきた。

 開発ではまずコンテンツの取捨選択から入った。メンバーからは多くのアイデアが出され、交通整理は大変だった。経営トップからの提案もあり、武藤が「キラーコンテンツ(=人気を決定付ける情報)として是非入れたい」と考えていたものと合致した。それがカブトムシ・クワガタの図鑑である。

判断ミスを認める
リーダーとしての度量

 取捨選択が終わったあともコンテンツは開発チームへの重圧となった。地理情報のほかに国旗を含む4種類の図鑑を収録するということは「分厚い出版物の編さんと同じ」(武藤)だった。TV地球儀は、「知育玩具」というより「教材」であり、コンテンツの誤りは許されない。

 校正作業は想定外に手間取った。スタッフは大学教授や各国大使館などの協力を得ながら確認を進めた。開発リーダーには、予算と日程の管理が重要な仕事となるが、コンテンツのコストは想定の「倍くらいかかった」と武藤は苦笑する。

 作業は遅れたが、7月の発売日をずらすことはできなかった。09年1月に行ったバイヤー向けの商品説明で、TV地球儀は大きな反響を呼んでいたからだ。武藤は焦燥したが、逆にバイヤーからの反響が「頑張りにもつながった」という。

 TV地球儀は日本玩具協会による09年「日本おもちゃ大賞」のイノベーション・トイ部門大賞に輝いた。その栄冠の原動力も「メンバーの熱意」によると、武藤は讃える。例えば、地球儀を回すとテレビ映像の地球儀が同調する仕組みや検索の機能。当初、武藤はコスト面からこれらの搭載は難しいと考えた。

 激しい論議の末、譲歩したのは武藤だった。「頑固で本気の主張こそが、やがて商品の評価につながる」と、自らの若き日々に重ね合わせて判断したのだった。実際、こうした機能はユーザーからも高く評価されることになった。

 ある意味、リーダーとしての判断ミスを認めるものだが、その率直さこそがリーダーに求められる度量であろう。TV地球儀は開発指揮官としての武藤を、またひと回り成長させたようだ。(敬称略)


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