格差縮小のカギは相続税強化にあり

AIは人類の敵か味方か? 新しい技術が経済にもたらすインパクトを考える(後編)井上智洋×飯田泰之


柳瀬 徹 (やなせ・とおる)  フリーランス編集者、ライター

1972年伊豆大島生まれ。企画・編集をした本に五十嵐泰正・他『みんなで決めた「安心」のかたち―ポスト3.11の「地産地消」をさがした柏の一年』、片岡剛士『アベノミクスのゆくえ』、久松達央『小さくて強い農業をつくる』、荻上チキ『災害支援手帖』、飯田泰之編『地域再生の失敗学』など。

対談

(画像:iStock)

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これからの技術革新によって起こることをめぐる対談の最終回。階層格差を放置すれば、いつか国全体が衰退していく。では、格差を是正する方法はあるのだろうか。そのために必要なのは「お金」と「文化」の再分配だ――。

衰退国に陥らないための教育の再分配を

飯田 「機械との競争」をここまでは労働者の側から考えてきましたが、経済全体への影響も考えてみたいと思います。人口知能の発達により、就労者一人当たりの生産性は間違いなく上がります。上がらなかったらそもそも導入する意味がありません。ただ、それがマクロの経済成長に結びつくのかどうかということです。

 一人当たりの生産性は上がっても、それを上回るほど技術的失業が発生したら元も子もありません。生産される付加価値の総計が増えなければ、100人で分けていた富を70人で分けることになるので、就労し続けられる人だけが豊かになるという状況になってしまいます。

飯田氏(左)、井上氏(右)

井上 すべての労働がAIやロボットに代替されてしまうまでの過程では何が起きるのか、考えるべきはそこなのかも知れません。人間の能力の限界が成長の足かせになってきたのであれば、もっと経済成長できるようになるかも知れない。問題は生産性向上に需要の側がついてくるのかどうかですが、ついてくるのであれば需要の増大によって仕事が増えるので、技術的に失業した人が別の仕事に就くこともできると考えられます。

飯田 恐ろしいシナリオは技術的失業や低賃金によって、消費性向の高い中間層の需要が下がり、消費性向の低い富裕層の資産ばかりが増えていくというものですね。需要制約は深刻になりますし、国全体では成長せずに経済格差はどんどん悪化していく。先進国未満で発展途上国以上の経済規模の国が、途上国の追い上げにより輸出競争力を失って停滞する現象を「中進国の罠」といいますが、階層格差を拡大させながら成長力を失う構造はこのシナリオと似ています。

井上 先進国でもアメリカでは1970年代から、格差拡大と成長鈍化が起きています。所得の中央値は停滞するか、もしくは低下しています。日本はアメリカほどにはなっていませんが、近い状況が生まれるかも知れません。

 需要制約を打ち破るものは、基本的には金融政策と財政政策ですが、もうひとつは再分配政策です。再分配は日本では理解を得にくいのですが、「需要制約の打破」のために再分配が必要だ、という正当化はできるのかも知れません。

 階層を問わず、これからもしっかり稼いで幸せに暮らしていくためには、需要制約を打破する必要がある。「努力した人からなぜ奪うんだ」といった再分配への抵抗は根強いものがありますが、親から受け継いだ資産は本人の努力とは関係ありません。相続税を上げる必要を理解してほしいと思ってしまうのですが、実際には抵抗が大きいでしょうね。

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「対談」

著者

柳瀬 徹(やなせ・とおる)

フリーランス編集者、ライター

1972年伊豆大島生まれ。企画・編集をした本に五十嵐泰正・他『みんなで決めた「安心」のかたち―ポスト3.11の「地産地消」をさがした柏の一年』、片岡剛士『アベノミクスのゆくえ』、久松達央『小さくて強い農業をつくる』、荻上チキ『災害支援手帖』、飯田泰之編『地域再生の失敗学』など。

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