隊員確保危ぶまれる中始まった高校生への戸別訪問
ーー自衛隊自身は今後の隊員の確保についてどう考えているのでしょうか?
布施 必要な数と質の隊員を集められなくなるという危機感を非常に強く持っています。これは防衛白書にも書かれていますが、このまま少子化が進み、大学進学などの高学歴化が進めば、人員を確保できなくなると。だから、10年以上前から、そのための対策を練っています。
自衛隊は「組織的募集の強化」と呼んでいますが、つまり自衛隊だけでは隊員確保できなくなるから、地方自治体や学校など部外の組織におおいに協力してもらおうということをやっています。たとえば、高校の校内で自衛隊の説明会を開いてもらったり、生徒に自衛隊の仕事に興味を持ってもらうために小中高での「総合的な学習」や「キャリア教育」の一環として体験入隊の受け入れに力を入れています。
ただ、現状では自衛官募集に積極的に協力してくれる学校は限られているので、募集の目標が達成できなければ、やはり自衛隊自身が駆けずり回ってリクルートするしかありません。今年度はかなり志願者が減っているので、これまで自粛していた高校生の自宅へ直接、広報官が訪問する戸別訪問を再開しました。自粛していたのは、民間企業は高校生への戸別訪問での求人活動は禁じられているからです。確かに、法律上は、公務員である自衛隊は職業安定法の適用外ではありますが、民間企業が禁止されているのに政府機関がやるのはいかがなものかと思いますね。
ーー高校は大学進学率や就職率が低い地域を中心にまわっているのでしょうか?
布施 アメリカの場合は、広報官の数も限られていますし、ただ闇雲にまわっても効率が悪いので、地域ごとに経済状況を含めたデータベースをつくって勧誘しているそうです。
日本では今のところ、そこまではしていませんが、大学進学率が高い高校よりも、就職を希望する生徒が多い高校を優先的にまわっています。進学希望が多い高校では大学合格実績が評価のひとつとなるのと同じように、就職する生徒が多い高校ではどれだけ就職したかが学校の評価基準になります。就職実績を上げるために、生徒に積極的に自衛隊を薦める高校もあります。自衛隊の方も、毎年多くの志願者を出している高校を「重点校」に指定し、卒業生の若い隊員を「ハイスクールリクルーター」に指定して母校を訪問させるなど力を入れています。
あと、学校との関係強化を重視しているのは、学校を通じて生徒の個人情報を手に入れようというねらいもあります。やはり、「数撃てば当たる」でやみくもに勧誘するよりも、自衛隊に肯定的な生徒や公務員志望の生徒など「入りやすい生徒」に絞って勧誘した方が効率がいいからです。その情報の中には、生徒の家庭環境、たとえば進学を望んでいるが経済的に厳しいといった情報も入ってきます。
ーー昔はボン引きのような街頭募集をしていて問題になったこともあるようですが、現在でも街で勧誘を行っているのでしょうか?
布施 自衛隊の広報官には、隊の中で唯一民間企業の営業のようなノルマがあるんです。最近聞いた話では、ハローワークに仕事を探しに行ったら、建物に入る前に駐車場で自衛隊の広報官に声を掛けられたと。今年は民間の雇用情勢も多少よくなったのに加え、安保法制の影響で志願者が大きく減っていて、広報官もそうせざるを得ない状況のようです。