2024年12月22日(日)

オトナの教養 週末の一冊

2016年3月13日

 昨年7月に衆議院本会議で可決された安全保障関連法案は、今後の日本がどのように平和と向き合うべきかを考えさせられた。またこれにより、集団的自衛権の行使やPKO活動での駆けつけ警護などが可能になった。しかし、実際に現場に従事する自衛隊や隊員がどのような現状であるのかは中々伝わってこない。そこで『経済的徴兵制』(集英社新書)を上梓したジャーナリストの布施祐仁氏に、自衛隊員の現状や隊員の確保などを中心に話を聞いた。

経済的徴兵制』布施祐仁著(集英社新書)

ーー「経済的徴兵制」と呼ばれるような貧しい家庭で育ち、大学進学の奨学金を手に入れるために、軍に入隊するというアメリカの若者の話はよく耳にします。同じようなことが日本でも起きていると。

布施 イラク戦争時、現地から帰還したアメリカ海兵隊員を取材する機会がありました。彼は母子家庭出身で家が貧しく、大学進学が経済的に難しかったので、軍の奨学金がほしくて入隊したそうです。何もイラクの人達が憎いと思ったわけでも、戦争がしたかったわけでもありません。

 彼はリクルーターの経験もあり「貧しい者を軍に入隊させるのは簡単だ。なぜなら貧しい人達には選択肢がないからだ」と話していました。その時、戦争を起こすのは国でも、そのリスクは国民が平等に負うわけではなく、貧困層が集中的に負わされる社会構造があると認識しました。その後、そういう社会構造がアメリカで「経済的徴兵制」と呼ばれていることを、堤未果さんの『ルポ 貧困大国アメリカ』(岩波新書)で知りました。

 同時期、日本では「構造改革」と称して様々な規制緩和が進められ、とりわけ労働法制の改正によって非正規雇用が急速に拡大していきました。日本では高度経済成長期以降、「1億総中流」などと言われていましたが、当時話題になった「ネットカフェ難民」を始め、この頃を境にそれまで目立たなかった貧困や格差が社会問題化し始めた。

 同時に、自衛隊をまだ戦闘が続くイラクに派遣し、海外派遣をそれまでの「付随的任務」から「本来任務」に格上げするなど、自衛隊を海外の紛争地に出していく流れも強まりました。このままアメリカの後を追うように格差社会が進み、自衛隊もどんどん海外に出されるようになれば、直に日本でもアメリカのような経済的徴兵制が始まってしまうのではないかと思い、取材を始めました。


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