アメリカに対するイメージは「憧れ」といったポジティブなものから「格差や貧困」といったネガティブなものまで様々だ。戦後70年を迎えた日本に対し、アメリカはその間いくつもの戦争を経験し、現在も対テロ戦争の真っ只中だ。彼らにとって戦後とはいつを表し、社会はどう変化してきたのか。アメリカから多大な影響を受ける日本の戦後民主主義を考える上でもその社会情勢は示唆に富む。そこで『アメリカのジレンマ』を上梓された慶應大学SFCの渡辺靖教授に話を聞いた。
ーー本書は、様々なジレンマを内包しているアメリカの「戦後民主主義」を理解することにより、日本の戦後をあらためて理解し、現在のアメリカの姿を捉えるという主旨だと思います。
日本人の中でも、アメリカを憧れや目指すべきモデルとして多くの人達が認識していた世代がいますが、今の若い人達にとっては戦争や格差、貧困などのイメージが強く、世代によってもアメリカに対するイメージはかなり違うかなと思います。
渡辺:それはあるかもしれません。たとえば、私が大学生だった約25年前、大学の先生に「僕らが学生の頃は安保闘争や敗戦の記憶など政治化された存在としてアメリカを見なければいけなかった。でも、君たちの世代はアメリカをそうした政治的な好き嫌いで判断しない世代になった」とよく言われました。
戦後の日本では、事が起きた時、一方ではアメリカの反応や出方を真っ先にうかがい、それに沿うように動く人たちと、もう一方ではほとんど条件反射的に目くじらをたてアメリカを批判する人たちがいて、未だにその旧来の発想から抜け出せていないところがあります。加えて、戦後の日本はアメリカ社会の真似をしていれば良いという時代が続きましたが、もはやそういう議論は通じにくくなっています。かと言って、ヨーロッパやアジアなどにアメリカに取って代わる社会のモデルがあるかといえばない。日本独自に新たな社会像を考え、見出していかなければならない。そこは本書でも伝えたかったメッセージのひとつです。
翻って、最近の若い人たちにとって「銃犯罪」や「軍事大国」「進化論を信じていない」などがアメリカに対するイメージとして上位に入った調査がありました。これは以前、アメリカの調査機関が日本の若者にアメリカに対するイメージを調査した時の結果です。この結果にアメリカ大使館員たちが嘆いていたのを思い出します。
また最近の若い人達がアメリカへ留学しないと話題になりますが、そこには学費が高い、日本の企業と就職のタイミングが合わないなど、いろんな理由があります。彼らを見ていると、イラク戦争に対する疑義やリーマンショックなど、良くも悪くもアメリカに対する眼差しが変わり、中国の台頭など多極化している世界のなかでひとつの国に過ぎず、もっと冷静な目で見ているのではないかという気がしますね。そういった部分に、アメリカ観の変化を感じますね。