今回のテーマは、「トランプ候補の風を読む」です。研究の一環として、2008年と12年の米大統領選挙でオバマ陣営に参加しました。今回はクリントン陣営に加わり、この夏と秋に中西部アイオワ州及び東部ニューハンプシャー州で、合計440軒の戸別訪問を実施してきました。さらに、1441人の有権者を対象に電話による調査も行いました。本稿では戸別訪問の最中に起きたエピソードを交えながら、共和党候補指名争いを戦う不動産王ドナルド・トランプ氏の周りに吹き荒れる風を分析していきましょう。
トランプ候補の勢い
米大統領選挙はパリ同時テロの影響を受けて、どの候補が米軍最高司令官として最も準備ができているかに焦点が移っています。パリ同時テロ後、外交・軍事問題に関して専門知識に欠ける非職業政治家のトランプ氏は不利になるのではないかという専門家の見方に反して、同氏の勢いは止まりません。テロ後に実施された米ワシントン・ポスト紙と、ABCニュースによる共同世論調査を見ますと、登録した有権者を対象にしたトランプ氏の支持率は32%で、2位の元脳神経外科医ベン・カーソン氏を10ポイント引き離しています。フォックス・ニュースの世論調査では、ニューハンプシャー州におけるトランプ氏の支持率は27%で、2位のマルコ・ルビオ上院議員(共和党・フロリダ州)を14ポイントもリードしているのです。
いったん、支持率に陰りが見えたものの、パリ同時テロ後もなぜトランプ氏は首位を走り続けることができるのでしょうか。そのカギは同氏の周りに吹き荒れる風にあります。
トランプ候補を守る風とは
風には方向、強さ及び速さがあります。まず、風向きから見て行きましょう。16年米大統領選挙では、政治家としてキャリアを積み上げてきた職業政治家に向かって怒りの風が吹いています。その風は、ワシントンで権力を握っているインサイダーや既存の体制を維持しているエスタブリッシュメント(支配層)に対する反感の風でもあります。
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従来の大統領選挙では、ワシントンの職業政治家は有権者からインサイダーとしてみなされ、一方、知事はアウトサイダーとして認識されるため有利に選挙運動ができました。ところが、今回の選挙では有権者は知事も職業政治家であり、インサイダーとして捉えているのです。その結果、現職知事や知事出身の候補が次々と共和党候補指名争いから撤退をしていきました。有権者が求めているのは、完璧なアウトサイダーである非職業政治家なのです(図表1)。