ロシア軍撤退は国全体を奪還すると言っているアサドの勢いを削ぐかも知れない。しかし、これもプーチンには好都合である。ウクライナやジョージアのごとく、凍結された紛争は彼の利益に資する。何故なら、分裂した国家において戦略的な地歩を守り、恒久的解決に拒否権を握る一方、長期の軍事的コミットメントを避けることが可能となるからである。米国とその同盟国はISとの戦闘を続けることとなるが、アサド政権が生き残ることで戦闘はより難しくなる。プーチンの介入と米国のまごついた対応のお陰で、泥沼に直面しているのは他ならぬオバマである。
出 典:Washington Post ‘Vladimir Putin rides out of Syria as a victor’(March 15, 2016)
https://www.washingtonpost.com/opinions/vladimir-putin-rides-out-of-syria-as-a-victor/2016/03/15/9a1ca556-eac1-11e5-bc08-3e03a5b41910_story.html
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泥沼にはまる前に身を翻したプーチン
ロシアのプーチン大統領は「任務は全体として達成された」と述べて、軍の「主たる部分」の撤退を発表しました。またしてもプーチンにしてやられたという社説です。「アサドを支え、国民をなだめようというロシアの試みは泥沼にはまるだけで、うまくいかない」とオバマ米大統領は言いましたが、泥沼にはまる前に、プーチンは身を翻したわけです。ただ、この結果、シリア情勢にどういう変化が生じ得るのかはよく分かりません。
この社説の論旨に異論はありません。しかし、泥沼に陥るのは他ならぬオバマだという末段の指摘は言い過ぎでしょう。まさにイラクのような泥沼に入り込まないというのがオバマのシリア政策形成の枢要な指針であった筈ですし、今後もそうだと思います。勿論、ISの壊滅を目指す、まだ先の見えない戦闘は続きます。膠着した内戦状況、あるいは社説の言う凍結された紛争を打破し、反体制派を建て直し、アサド抜きの体制への政治的移行を可能にする軍事的素地をどうやって築くかの問題はあります。
なお、プーチンの動きに過度に魅せられることは避けるべきでしょう。プーチンにとっての目標はアサド政権の生き残りとシリアの軍事拠点の維持にあり、この限定された目標が最大の目標です。シリアの再建は彼の眼中にはなく、ISの打倒は米国にやらせておくことを考えています。そういう意味で、プーチン大統領のやろうとしていることは身軽であることを認識しておくべきでしょう。
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