1年後には米国では全く新しい指導者達が誕生している。しばしば繰り返されるお題目とは反対に、米国とインドの戦略的関係に対する米国内の支持は、時として甚だ薄っぺらであり得る。これは、アジアの安全保障の問題について利益の対立があるからではなく、色々なグローバルな危機が米国の利益を他の方向に引っ張るからである。インドはグローバルな危機における枢要なプレーヤーではなく、従って、両国関係はたちまち無視されかねない。実質的な進展を遂げ、長期の戦略的関係を固めることは、米国の政権移譲期を乗り切るために必要な追い風となる。この点でカーター長官の訪問は成功であった。
出典:Richard M. Rossow,‘Carter Visit Another Step forward for U.S.-India Strategic Relations’(CSIS, April 14, 2016)
http://csis.org/publication/carter-visit-another-step-forward-us-india-strategic-relations
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カーター長官の訪問の成果の目玉はロジスティックスの相互支援に係る協定の原則合意であったようで、近いうちに署名に至るとされています。非同盟を旨とするインドには、この協定は米国の軍事行動にインドを巻き込む、あるいはインドの戦略的自立性を害するといった懸念が強く、長年棚晒しとなっていました。
長期的観点で成功といえるカーター訪印
この論説にあるように、米国はインドの防衛技術の向上を支援する姿勢を明確にしているようであり、今回の訪問に際する両国の国防相の共同声明は、先端技術の面で協力を深めることに合意したと記し、これには空母のデザインと運用、およびジェットエンジン技術についての協議が含まれる、としています。
以上の他、共同声明に特徴的なことは、海洋の安全保障について2つのパラグラフを割いて相当書き込んでいることです。海洋の安全保障の分野で協力を強化するとした上で、民間貨物船の航行に関するデータの共有を進めるための取極めを早期に締結すること、潜水艦の安全確保と対潜水艦作戦に関する双方海軍の間の協議を始めること、および海洋安全保障に関する双方の国防省、外務省の間の対話を始めることに言及しています。さらに、両国防相は「海洋の安全保障を守り、南シナ海を含め地域全体において航行と上空の飛行の自由を確保することの重要性を再確認した」などと述べています。
この論説のカーター長官のインド訪問の評価の観点は、正鵠を射ていると思います。政権移行期は不安定で思わぬことが起き得ます。次期大統領がトランプでなくとも、既定路線だと思っていたことが覆されることがあり得ます。その意味で、長期的に進めねばならないことはできるだけ固めておくことが賢明であり、カーター訪印がこの観点で成功であったのであれば、歓迎すべきことです。
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