安保激変

2016年6月14日

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小谷哲男 (こたに・てつお)

日本国際問題研究所 主任研究員

1973年生まれ。同志社大学大学院法学研究科博士課程満期退学。ヴァンダービルト大学日米関係協力センター客員研究員、岡崎研究所特別研究員等を歴任。専門は日米同盟と海洋安全保障。法政大学非常勤講師及び平和・安全保障研究所・安全保障研究所研究委員を兼務。中公新書より海洋安全保障に関する処女作を出版準備中。

 仮に中国海軍がロシア海軍を識別できていなかったとすれば、次のような分析も可能だ。尖閣の北方にいた中国のフリゲート艦は、レーダーで4隻(ロシア海軍3隻+海自1隻)の船影が尖閣の接続水域に接近し、入るのを確認した。ただし、識別はできておらず、海自が4隻の護衛艦を接続水域に入れてきた場合に備えて、確認および「主権維持行為」のために北方から接続水域に入り、ロシア艦船であることを確認した上で、接続水域から離脱したというものだ。つまり、中国海軍がロシア海軍を識別できていなかったため、今回の事態が起こった可能性がある。

 2015年11月には、中国海軍情報収集艦が、尖閣諸島南方の接続水域の外側で反復航行する事案が初めて確認された。その他の中国海軍艦船も、尖閣諸島により近い海域で確認されるようになっていたが、接続水域には入らなかった。中国側は、軍艦を接続水域に入れることは日本側の対応を招き、事態が拡大することを認識していたはずだ。だが、日本側が先に海自を接続水域に入れれば、中国側も接続水域、さらには領海に入る手はずだったのではないか。

 日本がロシアに抗議をしなかったように、中国にしてもロシア海軍が尖閣の接続水域を航行することには何の問題もない。接続水域にいるのがロシア海軍だとわかっていれば、中国海軍が「主権維持行為」を行う必要もない。ロシア海軍だと識別できていなかったために、接続水域に入るというリスクの高い行動を取らざるを得なかったと考えられる。

「東シナ海は安定している」
国際社会の誤解

 この見方が正しいとすれば、尖閣諸島周辺における中国側の監視・識別能力が不足しているため、第三国艦船という想定外の要因によって、東シナ海における緊張が拡大する可能性を示している。また、意図はどうであれ、中国海軍が尖閣の接続水域に入るという前例ができた以上、今後も同様の事案が発生する可能性は非常に高い。

 このため、日本は中国による一方的な現状変更の試みに毅然と対処し、南シナ海だけでなく、東シナ海においても中国の行動が緊張を高めていることを国際社会に訴える必要がある。

 国際社会には、南シナ海問題に対する懸念を強める一方、東シナ海は安定していると誤解する傾向がある。中国の政府公船(国家海警局所属)は、領海の外側にある接続水域にはほぼ常駐し、およそ10日間接続水域に留まった後、領海に数時間侵入し、帰還するという行動パターンが確認されるようになったからだ。2015年度に中国の政府公船が尖閣諸島の領海に侵入した回数は、前年度と同じ34回だった。

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