安保激変

2016年5月6日

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小谷哲男 (こたに・てつお)

日本国際問題研究所 主任研究員

1973年生まれ。同志社大学大学院法学研究科博士課程満期退学。ヴァンダービルト大学日米関係協力センター客員研究員、岡崎研究所特別研究員等を歴任。専門は日米同盟と海洋安全保障。法政大学非常勤講師及び平和・安全保障研究所・安全保障研究所研究委員を兼務。中公新書より海洋安全保障に関する処女作を出版準備中。

 4月27日、豪州政府は、海軍の次期潜水艦「Sea 1000」として仏DCNS社のバラクーダ型を選定したと発表した。2014年に当時のアボット首相から安倍首相にそうりゅう型潜水艦の技術提供が持ちかけられ、日本では官邸主導で日米豪による潜水艦協力を拡大し、中国の海洋進出を牽制するという戦略的観点から準備が行われてきた。その後豪州側の国内事情で、日本は仏独と共にコンペに参加することになり、最終的には日本がハシゴを外される形に終わった。

広島県呉市にある海上自衛隊の潜水艦基地(iStock)

「中国に技術が流れなくて良かった」
安堵の声もあるが……

 日豪潜水艦共同開発への期待が高まっていたため、失望もまた大きかった。日本の一部には豪州に対する不満と不信が高まり、中国の圧力に「親中派」のターンブル政権が屈したとする見方も広がっている。他方、虎の子の潜水艦技術を豪州に提供し、中国に流れる可能性がなくなったことを安堵する声も聞かれる。だが、このような見方が広がれば、中国の影響力の過大評価につながり、中国を利して日豪の戦略的利益を脅かすことになる。日豪は今後も防衛協力を強化すべきだが、そのためにはなぜ潜水艦共同開発が失敗したのか、その理由を考える必要がある。

 今回の選定結果を受けて、中谷防衛大臣は「選ばれなかった理由の説明を求めていく」と述べているが、実際には2015年の秋頃から、豪州の現地メディアではフランスが有利との情報が流れていた。アボット首相は日豪の潜水艦協力を戦略的観点から考えていたが、豪州国内では現地生産による経済効果を重視する声が強かった。経済政策の失策を批判されたアボット首相が途中で退任し、ターンブル政権に代わったことも、日本が後ろ盾を失ったことを意味していた。

 「Sea 1000」の総事業費は、12隻の建造費とその後の維持費用を含めて、500億豪ドル規模(約4兆円)とされている。フランス政府は、390億ドルで提案し、豪州国内に2800の雇用が創出されることになっている。与野党の支持率が拮抗する中で、7月の両院解散を発表したばかりのターンブル首相が、バラクーダ型の採用を潜水艦建造の拠点となる南部アデレードで発表したことは、国内要素が大きかったことを暗示している。 

 だが、日本は潜水艦技術を豪州に提供することに当初慎重で、現地生産にも消極的だった。このため、経済効果という観点からみて日本の提案は望ましいものではなかった。日本も昨年秋から現地生産に前向きな姿勢を示し、中谷防衛大臣がアデレードを訪問するなど官民を挙げた売り込みも強化したが、劣勢は覆せなかった。日本は日豪の戦術訓練に参加するためそうりゅう型潜水艦をシドニーに寄港させたが、同潜水艦が帰路に立つ中、フランス案の採用が公式に発表されることになった。

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