チャイナ・ウォッチャーの視点

2010年1月6日

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平野 聡 (ひらの・さとし)

東京大学大学院法学政治学研究科教授

1970年、神奈川県生まれ。東京大学法学部卒業。東京大学法学部教授。アジア政治外交史担当。著書に『大新帝国と中華の混迷(興亡の世界史17)』(講談社)、サントリー学芸賞を受賞した『清帝国とチベット問題 多民族統合の成立と瓦解』(名古屋大学出版会)がある。

 一見純粋無垢な小学生の一団による「中華に反する者を踏みつぶせ!」「中国頑張れ!中国の力は最大だ!」という絶叫。それは見る者をしてしばし唖然とさせ、やがてナチズムや北朝鮮のような恐怖政治の故事に触れたときの内心の震えへと陥れる。そんな驚愕のYouTube動画があるのをご存じだろうか?これは一昨年の末、中国のとある小学校の教師が「2009 中国加油(中国頑張れ)(http://www.youtube.com/watch?v=_0nUfQjZyU0)」と題する自作の詩を生徒に朗読させ、その模様を録画したものである。

中国国内の不満のマグマを表現した内容

 日本国内ではこれまでほとんど知られていないようだが、中国国内での大反響はもとより、詩の中で名指しされたフランスと台湾からの反発を呼んだ。その内容は一見すると極端きわまりない。しかし、北京五輪の直前に国際問題化したチベット問題をめぐる中国国内の激しい反発をはじめ、中国社会の奥底にくすぶる対内・対外的な不満のマグマをある意味で簡潔かつ的確に表現しているように思われるので、その一部を訳出してみよう。

大雪は西方の価値観のように自由に舞う。
その天を覆うこと哀愁。
ひとたび地に落ちれば凍り付いてしまうのだ!
中国は退き縮まっただろうか?
いや! オリンピックは成功した! 我々は勝利したのだ!
炎黄(の子孫)の堅く毅然とした熱血は熾烈なる聖火のようだ。
それは灰のように暗い世界を燃やし、
万里の山河には再び五彩に満ちた一幅の絵が描かれた!
地震はサルコジの立場のように、猥瑣な伎倆で巍々たる中華を揺るがした。 
中国は退き縮まっただろうか?
いや! 神舟七号は宇宙へ飛び立った! 我々は勝利したのだ!
痩せこけたヨーロッパは、
天朝(偉大な祖国中華)の金の戈と鉄の馬を止められない。

 この詩が何よりも強調するのは、「自由な価値がありすぎても無用で災難である」というメッセージである。恐らく、直前の世界金融危機の原因となった野放図な金融資本主義や、「自由」の名に基づくチベット問題への干渉がカルフール不買運動に象徴されるフランスの国益への打撃につながったことを嘲笑い、党と国家によって指導された集団主義による経済発展と「安定」こそ優越すると言いたいのだろう。日本などでもここ1年ほど「中国経済の強さの秘訣は、党の指導による果断な経済政策にある」と付和雷同する議論が見られるが、それを先取りしているかのようでもある。そして、強烈な「反西方」意識が、「天朝」の欧州蹂躙という願望にまで高められていることに注目すべきであろう。

対日問題にも向けられている

 その矛先はさらに、少数民族問題・台湾問題・対日問題にも向けられる。

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