旧ソ連やロシアのスパイが、国の体制に絶望する形で情報をアメリカやイギリスなど事実上の「敵国」に流していた過去の事例なども興味深い。英国にひそかに機密情報を流していたロシアのスパイが、自分に嫌疑がかけられたのを知り、亡命を決意し、国境までの間に用意された多数の関門をかいくぐって協力者の車のトランクにひそんでフィンランドに脱出するくだりなどは、映画を見ているような緊張感にあふれた記述である。旧ソ連や現在のロシアは自国の機密情報が抜ける国であると同時に、必死になって防諜しなければならない国であることがわかる。同時に米英という国々は、あらゆる手段を尽くして旧ソ連・ロシアの情報を集め、いまも分析を続けている国なのだということを痛感する。
本書を読み続けていると、こうした現実をまざまざと突きつけられる。国際情報戦の厳しさを実感するとともに、日本がそれに伍してやってゆくにはハードルが高く、長い道のりが待ちかまえているという印象が強い。しかし現実がこうである以上、対応せざるをえない。日本ができるところを少しずつ、著者のいう「トロでなくコハダ」、つまりトロ(米国情報)のように派手ではないが、味わい深いコハダ(日本情報)で渋く職人芸を見せる部分でやるしかないのだろう。まさに「千里の道も一歩から」である。
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