2024年4月20日(土)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2016年8月18日

 オバマ大統領は、核兵器のない世界を目標として掲げてきました。同時に、この目標が、自分が生きている間には実現しないだろうとの現実も認めてきました。しかし、大統領任期も終わりに近づく中、米国による核兵器の先制不使用や核実験の禁止を約束し、米国の核兵器および運搬手段の近代化を中止するために何ができるかを検討している模様です。

ロシアが応じるとは考え難い

 核の先制不使用については、冷戦中は欧州正面においてソ連の通常兵力の方が強いとの状況があり、米・NATO側は柔軟反応戦略として、核の先制使用がありうることを抑止力としてきました。ソ連とワルシャワ同盟の崩壊後は、NATOの通常兵力でロシアの通常兵力は抑止できるので、核の先制不使用を宣言することは可能かもしれません。ロシアが核兵力に頼る度合いを強め先制使用を認めている中で、先制不使用を宣言し、ロシアにも同様な姿勢を要求することは考えられます。しかし、ロシアがそれに応じることは考え難いです。

 核を先制使用する能力は、他の大量破壊兵器である化学兵器や生物兵器の使用抑制にも役立ってきました。第1次湾岸戦争の前に、ベーカー米国務長官はイラクのアジズ副首相に、紛争になった時に化学兵器は使うな、我々には報復する手段があると脅しています。イラクはイスラエルにミサイルを撃ちこみましたが、化学兵器を弾頭にはしませんでした。当時イラクは化学兵器を持っていて、国内のクルドに対し使用しています。イラン・イラク戦争でも使用しました。核兵器先制使用の可能性は、そういう抑止の効用もあります。

 核兵器の先制不使用については、こういう点をどうするか、同盟国も巻き込んで協議する必要があります。北朝鮮には化学・生物兵器があることは確実です。核攻撃には核で報復するとしても、先制不使用を約束すれば、化学・生物兵器の抑止をどうするかの問題があります。

 核実験禁止については、米国としては、包括的核実験禁止条約を批准する努力を上院との話し合いで行うのが正道です。上院は批准しないとの姿勢ですが、だからと言って安保理決議で実験禁止を決めると言うのは少し邪道です。
米国の核政策の重要な変更は、議会、同盟国との協議を経て行うことが適切で、あまり性急なやり方でやると、持続性がない政策になりかねません。

 まだ検討している段階ということですが、重要な問題です。日本としては検討状況についての説明を求めてもいい案件ではないかと思われます。日本はどうしてほしいか、意見を固める必要もあります。


  
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