科学で斬るスポーツ

2016年8月19日

»著者プロフィール
閉じる

玉村 治 (たまむら・おさむ)

スポーツ科学ジャーナリスト、科学ジャーナリスト

小学校より野球をはじめ、大学では投手として活躍。スポーツを科学的に分析することを得意とし、バンクーバー、ロンドン五輪、ワールドカップサッカーなどで取材。

 リオデジャネイロ五輪が開幕したばかりの8月7日(日本時間8日)、米大リーグマーリンズのイチロー(本名・鈴木一朗、42歳)が、ロッキーズ戦でライトフェンス直撃の三塁打を放ち、大リーグ通算3000安打を記録した。大リーグ史上30人目。16年目での到達は大リーグ最多の4256安打の記録を持つピート・ローズに並ぶ最速タイ。イチローの日米通算は、そのピート・ローズを上回る4278安打。この記録をどこまで伸ばせるか、さらなる楽しみは尽きない。

写真:AP/アフロ

 イチローがここまで至ったのは、類まれな技術力、精神力、修験者のようなストイックなまでの努力、準備にあるのは間違いない。しかし、情報過多の中で「変えるもの(変えなくてはいけない)」「変えてはいけないもの」を明確に区別し、それを揺らぐことなく実行し続けるという姿勢にこそ大記録達成の秘密が隠されている。試行錯誤とぶれなき本質へのこだわり。イチローの魅力のほか、他のスポーツや、ビジネスにも通じるイチローの野球哲学を通じて、学ぶべきことは何なのか考えてみたい。

どこへでも打てる広角技術 

【図1】イチローの3000安打の打球方向と本数
拡大画像表示

 歴代3000安打を記録した選手を見ると、一つの共通点としては、左右どこへでも打てる広角打法の技術がある。

 一昨年までニューヨーク・ヤンキース一筋でプレーし、歴代6位の3465安打の記録を残すデレク・ジーター(右打ち)は、ライト方向に巧みにボールを運ぶ技術を持っていた。

 イチローも図1が示すように、ライト、センター、レフト方向にほとんど万遍なく、ボールを打ち返している。これは狙った方向にボールを打ち返すことのできるバットコントロールのうまさがあることが大きい。

 イチローの場合、もうひとつ特徴がある。内野安打の多さ。これは打ちそこないではない。イチロー自身「調子がいい時ほど内野安打がでる」というように、意図的に難しい球を打ち、ぼてぼてにする技術があるからこその産物である。3000安打の2割が内野安打という数字は、大リーグの野球に新たな風を吹き込んだと言える。

変えていいもの
あくなき試行錯誤の連続

 バッターボックスに入った時に、バットを立てた右手を投手に向け、袖をまくる仕草は、イチローのルーティン(プレー前に必ずやる動作)として知られる。ほかにも、股関節のストレッチなどもある。これはどこへいっても変えることはない。

 しかし、イチローは常に試行錯誤を繰り返している。「失敗することは大事。遠回りして結果にいたることは大事。もちろん最初からそれを無駄だと思っていないが、結果的にそれが無駄だと思えることはきわめて重要」と自ら語る。

関連記事

  • PR
  • 新着記事

    »もっと見る