オリンピック憲章、国際法、国連憲章、国家間の合意やその時々の指導者や政府の声明なども、ロシア側は「単なる方便」と見ており、利用できるときは徹底的に利用するが、その解釈などはその時の都合で勝手に変更され、また不都合となれば反故にされる。つまり、法や合意、約束を尊重するという、秩序のための基本的精神が欠如しているのだ。
約束を反故にするロシアに
笑顔と揉み手で歩み寄る日本
日露関係に関しても日本の指導者や政府はこの面で幻想を抱かず、冷静な目でロシアの行動・論理を直視して対応を考え直すべきだ。最近も、日露間で経済協力の合意が幾つか打ち出された。5月6日のソチでの日露首脳会談でも、日本側から8項目のロシア極東発展に向けた協力提案がなされてロシア側は歓迎し、9月初めウラジオストクで予定されている安倍・プーチン首脳会談で、それらが更に具体化される予定だ。
しかし私が理解に苦しむことがある。それは、領土交渉と平和条約に関するロシアの態度は近年ますます強硬になっており、これに関して両国首脳が過去に署名した諸合意は、歪曲され反故にされている。それにも拘らず、日本政府はプーチンやロシア側に笑顔と揉み手で歩み寄り、経済協力推進などの要望に懸命に応えていることだ。
対等な国家間の外交関係としては異例だが、日本の首相が一方的に数回続けて訪露している。しかもソチでは、「カタール外相との会談」が理由で、遠路訪問の安倍首相をプーチンは1時間も待たせた。もちろん、どちらが会談を懇願しているか、どちらが格上かを示す意図的演出だ。
昨年9月、国連総会の際の日露首脳会談で、遅れそうになった首相が大統領に走り寄り笑顔を振りまく場面がロシアテレビで幾度も放映されたが、これも同じ意図だ。
ソチで安倍首相はこれまでの発想にとらわれない「新アプローチ」を提案したとされる。昨年4月、首相訪米の際、オバマ大統領はG7が対露制裁で協力している状況下での年内のプーチン招待を考え直すよう説得しようとした。しかし首相はオバマ大統領に最後まで言わせずに断固それを拒否し、同席したライス大統領補佐官も首相の剣幕に絶句したという。
また、今年2月、オバマ大統領が電話で首相に、ソチ訪問につき時期を考えるよう再考を促したが、これも強く拒否した。