世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2016年9月5日

 米国シンクタンクCSISのロシア・ユーラシアプログラム副部長のジェフリー・マンコフは、7月29日付CSISのサイトで、クーデター騒ぎ後の国内情勢とNATO諸国との緊張関係から、トルコがロシアに近づき、近隣へのロシアの軍事的進出を許すことになりかねないと、懸念を表明しています。論説の要旨は次の通りです。

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 7月15日のトルコのクーデター騒ぎで儲けたのはロシアである。クーデターとその後のエルドアン大統領による弾圧はトルコとNATO諸国との関係を緊張させ、トルコがロシアとの協力を追求する誘因となっている。プーチン大統領はトルコを引き寄せ、トルコ軍の混乱を利用して黒海、東地中海および南コーカサスでの進出を推進するであろう。

 6月末にエルドアンは、昨年11月のロシア軍機撃墜事件に遺憾の意を表明し、ロシアとの関係正常化の途を拓いた。その要因はロシアの制裁による経済的打撃である。ロシアは3番目の貿易相手国で、半分以上の天然ガスをロシアに依存する。

 もう1つの要因はトルコのシリア政策の破綻である。これにロシアが加担している。ロシアの支援を得て、アサド政権はその支配地域を拡大しており、倒れそうにもない。一方で、クルドのPYD(シリアのクルド民主統一党)もその支配地域を拡大しているが、ロシアがPYDを軍事的、財政的に支援しているとトルコは非難する。クルドに関しては米国とも軋轢を抱える。トルコはスンニ派を支援して来たが、ISISにトルコ領の通過を黙認して来たことが裏目に出て、トルコが過激派テロの目標となっている。

 これら一連の問題がエルドアンの決断を促したが、両国はシリア問題に関する協力の方途を見出す努力を始めている。6月28日のイスタンブール空港のテロ事件はこのプロセスを加速させた。両国外相が会談し、ISISに対する治安・情報面での協力の再開で合意したが、シリアについて更なる協力の地ならしをしたと見られる。クルドに対するロシアの支援の縮小とISIS打倒のための両国間の協力の見返りに、トルコがアサドの即時退陣の要求を和らげることが協力の内容となるかも知れない。

 トルコでのクーデター企てに対し、ロシア外務省は、「合法的に選出された指導部」に協力することを約束した。エルドアンとの電話会談でプーチンは「非憲法的な行動と暴力は断じて許容不可なること」を強調した。軍士官、裁判官、学者の大量追放と非常事態宣言をも批判した西側同盟国の対応と比べて、ロシアの対応は際立った対照をなしている。米国在住のギュレン師の引き渡し要求の故に米国との間の緊張は高まっている。

 クーデター未遂後の混乱、西側との離間、ISISとクルドとの問題を抱えるトルコに梃子は殆ど無く、ロシアとの関係はモスクワの都合の良いものとなろう。トルコ軍の弱体化は、政治危機と相俟って、両国の共通の近隣におけるロシアの力に抵抗するトルコの能力を縮小する。シリアの紛争とクリミアの奪取はトルコにとって地政学上の挑戦である。それは黒海と東地中海におけるロシア海軍のプレゼンスの顕著な拡大をもたらした。この地域におけるロシアの接近阻止・領域拒否の能力はトルコ海軍を閉じ込め、NATOのトルコ救援に向かう能力を制限する怖れがある。

 クーデター騒ぎの前から、制裁はもとより、黒海、東地中海、南コーカサスにおけるロシアの戦略的進出がトルコをロシアとの妥協に駆り立てていたが、今や、国内の不安定さとNATO同盟国との問題に当面して、トルコは友人を得ることに躍起となっている。ロシアは喜んで好意を示しているようである。トルコはロシアの友情の代価は高くつくことを知るであろうが、問題はどれ程まで払う気があるかである。

出 典:Jeffrey Mankoff ‘A Friend in Need? Russia and Turkey after the Coup’(CSIS, July 29, 2016)
https://www.csis.org/analysis/friend-need-russia-and-turkey-after-coup

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