東大教授 浜野保樹のメディア対談録

2010年3月1日

 「考えて、考え抜いて、手を抜くな」
監督の言葉は原さんの耳に今も残る。
ワンカット、ワンカットに、力と熱気を与えた制作現場。
人と人が、全人的なぶつかり合いをする中で生まれた映像美の結晶。
いまの時代、ひきこもる人々の間で、新たな達成は可能なのか。
連載は、時代と日本人への洞察に及んで大団円。

(司会・構成=谷口智彦・明治大学国際日本学部客員教授)

司会 浜野さん、日本映画の現状をお尋ねしたらなんと。

浜野 いまの映画が大変なのは、あらゆる古典と勝負しなきゃいけないってことです。だいたい昔は、映画を見る行為自体が一苦労だった。『羅生門』を見ようと思ったら、僕の場合ですと大阪の街に行かないといけない。中学生だと勝手に出してくれないから、シナリオ買ってまず読んで。高校生になってようやく見に行っていいってことになり、映画館まで足を運んでやっと見る。そしてビデオとかDVDとかというものはないから、常に今の、現代映画しか見られないという物理的制約の中での鑑賞行為だったわけです。 

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 それが今では、時代劇を撮ろうとする監督は、必ず『七人の侍』(1954年)をどっかで意識していないといけない。分厚い古典の集積と…

司会 あらゆるアーカイブとの勝負を強いられている、と。

浜野 そうです。いまの作家はある意味かわいそうだな、と思います。比較される対象がこんなにあるわけだから。でもねえ、クリント・イーストウッドの最近の作とか、『ぐるりのこと』(1)(橋口亮輔監督、2008年作品)なんかを見たあとの感覚は、原さんがさっき言われたことととても近いんですよ。原さんさっき、人間形成において切っても切れない役目を果たしたのが映画だったとおっしゃったでしょう。

暗い映画館から出て思ったこと

 それはかつての映画鑑賞というと、映画館から出たあとの、気分の激しい衝撃を伴うものだった。あまりにも映画に打たれてね。全身を打ちのめされたように硬直していたり。原さんは、きっとそういう経験をたくさんされたんだと思う。自分も少しはましな生き方をしなくちゃ、と思ったりね。暗い映画館から、明るい日常に飛び出したとき、世界が違って見えるというような経験をしたものでした。それに近い感覚を味わわせてくれる映画というのは、いまもつくられていると思います。

『ぐるりのこと。』(1)
一組の夫婦が子どもの死を乗り越えていく10年の軌跡を描いた作品。日本アカデミー賞では主演の木村多江氏が最優秀主演女優賞を受賞するなど、数々の映画賞を受賞した。

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