2024年4月23日(火)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2016年10月13日

 上記は、オバマのアジア回帰政策を評価したものです。この政策は2011年にクリントン国務長官が論文発表したもので、イラクとアフガニスタンの二つの戦争を終えるに伴い、新たな現実に適合するよう外交の焦点をアジアに移行するとしたものです。この政策は一方で、米国がこの地域に安定のための力としてとどまることを明確にし、同盟と連帯の関係を強化します。他方、中国がこの地域で覇権を追求することを阻止しようというものです。

 前者については、社説が指摘するように成果をあげたと評価出来ます。ベトナムやフィリピンとの安全保障関係の新たな展開もそうです。特にインドとの関係の強化は注目に値します。インドの従来からの非同盟志向の姿勢に変化が見られるようです。これら諸国の動きの背景に中国の無遠慮な行動があることは疑いありません。米国の政策が、これら諸国の安全保障に対する関心を高め、それなりの措置をとるよう促し、全体として中国の動向に対する抵抗力を増す方向に作用しているように観察されます。この努力は次期政権にも引き継がれるべきものです。社説が言及し忘れていることは、米国がこの地域にとどまるについて、日米安保条約が枢要な役割を果たしていることであり、このことは明確に認識される必要があります。また、日本もこれら諸国の抵抗力を強めるための施策を引き続き進めて行くことが重要です。

TPP、中国、北朝鮮

 他方、オバマ政権がやり残していること、次期政権に持ち越されることに、TPPの他、中国と北朝鮮があることは誰しも同意するでしょう。これらに関してのアジア回帰政策は成功とはいい得ません。中国が南シナ海に関する国際仲裁裁判の判断を紙屑だとして従わないことは問題であり、この態度は、理屈をいえば、安保理で「平和に対する脅威」だと認定し、制裁が検討されてもおかしくありませんが、国連はそれが可能になるようには設計されていません。スカボロー礁の埋め立てに中国が乗り出し、既成事実がもう一つ積み上がる事態が懸念されますが、フィリピンの腰が定まらないことも不安材料です。米国に打つ手があるかどうかは分かりません。

 北朝鮮については、オバマ政権は中国と協力して北朝鮮を封じ込め、非核化を実現するという政策を追求してきましたが、この政策は破綻しています。去る2月の米国の制裁法、3月の安保理決議による制裁にもかかわらず、北朝鮮の核とミサイルの脅威は増大しつつあります。米国独自の金融制裁にも、北朝鮮が痛痒を感じている様子はありません。これは制裁法の権限が十分に使われていないためという批判もあるので、もう一段の独自制裁も検討されるでしょうが、その特異な体制から北朝鮮の制裁に対する耐久力は、イランよりも遥かに大きいのでしょう。

 結局のところ、北朝鮮の核とミサイルの能力を物理的に排除するしか方策はないでしょう。サイバー攻撃でこの能力を無力化することを米国は当然検討しているでしょうが、それが出来なければ、先制攻撃による外科手術しかありません。これは北朝鮮の暴発のリスクを伴う選択です。しかし、潜水艦搭載の核ミサイルの実戦配備あるいは米本土を射程におさめる長距離弾道核ミサイルの実戦配備を米国が座視し得るとは思えず、米国はいずれかの時点で決断を迫られるでしょう。

  
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