とても読みやすく微妙にバランスのとれた内容だというのが、一読した後の正直な感想だ。歴史ノンフィクションとさきほど書いたが、歴史読み物といった方がいいかもしれない。つくりはハリウッド映画的だ。各章は特定の場所、年月日と時刻を明示し、大統領執務室での要人たちのやりとり、ペリリュー島や沖縄での日本軍とアメリカ軍の激闘など、さまざまな場面を臨場感豊かに描写し、アメリカが原爆投下という決断に至る過程を描く。一方的な論の展開ではなく、歴史的な事実を積み重ねた読み物としてまとめており逆に説得力がある。
ペリリュー島や硫黄島などでの激闘シーンでは、当然ながらほとんどがアメリカ兵の視点から描かれる。実際に従軍した人々の回想コメントなどをふんだんに盛り込み、国のために命を落としていくアメリカ兵たちの英雄的な活躍をドラマチックに描く。アメリカ人が書いたのだから、これはしかたないだろう。一方で、アメリカ軍が無差別爆撃で民間人を大量虐殺した東京大空襲にふれたり、原爆投下によって引き起こされた広島や長崎での惨状について、被爆者たちの回想談なども交えて伝えたりしている。核兵器の悲惨さを指摘しながらも、本書は原爆投下はやはり正しかったと主張する。
本書が原爆投下を正当化するロジックの基本はこうだ。武士道を大切にする日本はなかなか無条件降伏を受け入れなかった。あのまま戦争が続いていたら、アメリカは日本本土への上陸作戦を決行し、さらに多くの命が失われていただろう。残虐な日本軍を止めるには原爆投下はしかたなかったというものだ。
バターン死の行進、南京事件、
従軍慰安婦についての記述も
これから、本書の記述をいくつか引用するが、本コラムを執筆するわたし自身、歴史的な事実として内容が正しいのかどうか判断する能力を持たないことはお断りしておく。ベストセラーに日本軍による残虐な行為が多く取り上げられ、多くのアメリカ人が読んでいるという事実をまずは知っていただきたい。日本軍の蛮行に関する記述の詳細な吟味や事実誤認がある場合の筆者オライリーへの抗議などは、歴史家や外務省の専門家の方々にお任せしたい。
日本軍によるフィリピン進攻作戦で、アメリカ軍とフィリピン軍の捕虜を捕虜収容所に移送する際に多数の死者を出した、いわゆる「バターン死の行進」について次のように記している。
Bataan Death March, seventy-six thousand captured American and Filipino soldiers were stripped of their valuables and force-marched sixty-five miles to a prison camp. Their hands were bound the entire way; those unable to keep pace in the brutal heat and humidity were shot, bayoneted, or beheaded by their captors. Japanese trucks rolled right over those who collapsed. In all, more than seven thousand men perished.
「バターン死の行進では、捕虜となった7万6000人のアメリカ兵とフィリピン兵が貴重品を奪われ、65マイル離れた捕虜収容所まで徒歩での強行軍を強いられた。捕虜たちの両手は縛られっぱなしだった。猛暑と極度の湿度のなか、ついていけなくなった者たちは、日本兵に銃で撃たれたり銃剣で刺されたり、あるいは首を切られた。日本軍のトラックは倒れた者たちの上を進んでいった。総計7千人以上が亡くなった」