前向きに読み解く経済の裏側

2016年11月7日

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塚崎公義 (つかさき きみよし)

久留米大学商学部教授

1981年、東京大学法学部卒業後、日本興業銀行(現みずほ銀行)に入行。主に調査関連部署に勤務した後、2005年に銀行を退行して久留米大学へ。著書に『増補改訂 よくわかる日本経済入門』(朝日新書)、『老後破産しないためのお金の教科書』(東洋経済新報社)、『世界でいちばんやさしくて役立つ経済の教科書』(宝島社)、『なんだ、そうなのか! 経済入門』(日本経済新聞出版社)など多数。

 大手メーカーは下請けから部品を仕入れます。不思議ですね。どうして自分で作らないのでしょうか? 自分で作るのが嫌ならば、その時々で一番安い売り手から買えば良いと思いませんか? どうして毎回同じ「下請け企業」から買うのでしょう?
 

大企業は人件費が高いので、中小企業から部品を仕入れる

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 大企業が下請け企業から部品を仕入れる、という取引は、当然のように行なわれていますが、これは不思議なことです。大企業の方が技術力も資金力も高いのですから、自分で作ればよいのに、なぜ下請けから仕入れるのでしょうか? それは、下請けの方が給料が安いので、下請けから仕入れた方が自分で作るよりも安上がりだからです。

 これは、ある意味で分業です。先進国と途上国の間の貿易と似ています。製品組み立ては大きな工場や高い技術力が必要ですが、部品制作はそれほどでもないとすると、中小企業は部品作りに比較優位を持つことになります。そこで中小企業が大企業に部品を「輸出」することになります。途上国から先進国に労働集約型製品が輸出される際と同様、賃金格差が分業を促すのです。

 では、大企業が組み立て工場と部品工場を作り、それぞれの工場で異なる賃金で労働者を雇うという選択肢はどうでしょうか。理屈の上では可能ですが、日本企業は「会社は社員の共同体」という性格を持っていますので、会社の中で工場によって賃金が大きく異なる事を好まないのです。何と言っても、同期入社は同じように昇給昇格していく「年功序列賃金制」が採られているほどですから。

「毎回入札」より「下請け制度」が合理的

 では、大企業が部品を仕入れるとして、毎回入札を行なうのではなく、「下請け企業」として特定の中小企業を囲い込むのはなぜでしょうか?

 毎回入札を行なえば、最も安い価格で部品が調達出来るかもしれませんが、落札した部品メーカーが納期や品質などの面で問題があるかもしれません。部品メーカー側は、自社が納期や品質を守ることを知っていますが、そのことを大企業に信じてもらう術がないのです。これを「情報の非対称性」と呼びます。興味深い題材なので、別の機会に記しますが、ここでは「継続的な取引であれば、大企業側も下請けが納期や品質を守る事を知っているので安心だ」と記すにとどめておきましょう。

 継続的な取引をすれば、御互いが御互いの事情を詳しく知っているので、契約条件や部品の設計などについて細かい打ち合わせをする必要が無く、「前回どおり」という一言で済む、という便利さもあります。

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