4月の熊本地震で被災し、操業を停止していたソニーの半導体工場(熊本県菊陽町)が7月末に生産を再開した。この工場はスマートフォンのカメラなどに使われるイメージセンサーの量産拠点だ。ソニーにとっては、虎の子とも言えるデバイスを製造する心臓部である。
10月初旬に復旧した工場を報道関係者に公開した際、熊本工場を運営する生産子会社・ソニーセミコンダクタマニュファクチャリングの上田康弘社長は「(被災後)最初にクリーンルームに足を踏み入れた時は熊本撤退も頭をよぎるほどだった。事前にBCP(事業継続計画)を作り、訓練してはいても、実際の被災現場を見た時に足がすくんだ」と、振り返った。
有事の際に企業が損害を最小限に抑え、事業の継続や復旧を図るための計画を「事業継続計画(BCP、Business Continuity Planning)」という。今回、役立ったのもこれだ。震災直後の「4月末という早い段階で、山形や長崎の自社工場に生産を移管する方向性を決め、その後移管した」(鈴木裕巳熊本TEC長)ことに加えて、富士通にも代替生産をさせていたと見られる。「個別案件には答えられないが、半導体については東日本大震災以降、『何かあったら助け合おう』というスタンスで可能な限り他社にもご協力はしてきた」(富士通広報)という。
こうした結果を受けて、一部でも報じられているように、東芝、ルネサスエレクトロニクスなど半導体を手がけるメーカー各社も災害によって半導体工場が被害を受けた際に、必要な資材や部品をお互いに融通する体制作りに乗り出している。
事業継続計画を総合的に評価し、「BCM(Management)格付」に取り組む日本政策投資銀行の蛭間芳樹氏は「平時には競合関係にある企業同士も、災害時は助け合う業界共助の仕組み、お互い様の産業文化的な価値観は、日本が世界に誇る民間の災害レジリエンス(復元力)の一つの戦略だ」と語る。