チャイナ・ウォッチャーの視点

2016年11月22日

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富坂 聰 (とみさか・さとし)

ジャーナリスト

1964年、愛知県生まれ。北京大学中文系に留学したのち、豊富な人脈を活かした中国のインサイドリポートを続ける。著書に『苛立つ中国』(文春文庫)、『中国という大難』(新潮社)、『中国官僚覆面座談会』(小学館)、『ルポ 中国「欲望大国」』(小学館新書)、『中国報道の「裏」を読め!』(講談社)、『平成海防論 国難は海からやってくる』(新潮社)、『中国の地下経済』(文春新書)、『チャイニーズ・パズル―地方から読み解く中国・習近平体制』(ウェッジ)などがある。

 ドナルド・トランプが新大統領に決まったことで、中国社会には少なからず衝撃が走った。だが、といって新大統領が決まり、ただちに対中外交の転換を予測して中国が慌てているということではない。中国にとって、トランプの対外政策は未知数で、当面、どのような〝顔〟になるのかを見極めることになるのだろう。

 選挙戦を通じてトランプの口から発せられた対中観――攻撃と言い換えても良いが――は、少なくとも中国や米中関係をよく理解しているとは言い難いものであった。

 例えば、「すべての中国製品に45%の関税をかける」や「中国を為替操作国と認定する」といった発言だ。45%の関税は、そもそも非現実的だが、たとえ実現したとしても、その影響は多くのアメリカ企業へと返ってくることが避けられない。また輸入品に強く依存する米経済の実情を考えれば、国民の生活コストが一気に跳ね上がり、負の影響となる可能性が高い。

 また為替操作国についての発言も、中国が輸出のために人民元を不当に低く操作しているというのは、およそ現在の話ではない。中国政府はむしろ人民元の流出に苦しみ、元の価値の安定のために外貨準備を急速に切り崩してきた。また、次の発展のための技術獲得を目指し、企業買収を積極的に展開しようとすることにも人民元は高い方が有利だ。

古いトランプの対中認識

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 その意味でトランプの対中攻撃は、いったいいつの話をしているのか、というほど焦点がズレている。

 米中の産業は比較的相互補完性が高いことはよく知られているので、摩擦が発生しにくいことがベースになっているのだが、その上に、破産したデトロイト市を2年で再生させてしまった裏側にチャイナ―マネーがあったように、州レベルでも中国経済との相性は良好だ。2015年9月の習近平の訪米では、ミシガン州知事が事前に何度も中国入りしていたことなど、象徴的で、トランプが本気でラスト・ベルト(Rust belt=米五大湖周辺の衰退が激しい工業地帯)の経済を上げようとすれば、チャイナ・マネーの取り込みは避けて通れないのである。

 その上で米中対立の芽があるとすれば、それは間違いなく最先端分野でのことあり、IT分野だ。なかでも次のイノベーションの目玉とされるAIなどはその主戦場だが、そのことに関する言及がないのは、すなわち中国を「知らない」のか、「興味ない」ことを意味している。

 さらに典型的なのは、CNNとのインタビューに答えて披露した「北朝鮮は中国が解決すべき問題であり、米国はその方向で中国に圧力を掛けるべき」、「税を課すなり、貿易交流を切断したら、中国は約2分で崩壊する」といった考え方だ。

 要するにトランプはアジア外交にも中国にもそれほど興味がなく、現状認識にもかけていることがよく理解できるのだ。

 つまり、トランプの外交政策が見えてくるのは、大統領として正しい現状認識ができてから、というのが中国の受け止め方ではないかというものだ。それまでひたすら好印象を植え付けるだけの接触とならざるを得ないのだろう。

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