トランプ次期大統領は環太平洋経済協定(TPP)からの離脱を早々と打ち出すなど日本政府に衝撃を与えているが、米国内では同氏が多くの将軍ら軍人を登用する動きを見せていることに外交・安保政策で軍事色が強まるとの懸念が広がっている。起用される将軍らのほとんどがオバマ政権下で“問題児”とされた人物であることも注目されている。
“強い男”をたむろさせるのが好み
トランプ氏や政権移行チームを担当する側近らは目星を付けた候補者と相次いで会談、国防長官や国務長官、テロ対策を統括する国家情報長官、ホワイトハウスの外交・安全保障関連の補佐官らの人選を進めた。目立つのが米軍の退役将軍らとの面談が群を抜いて多いことだ。
とりわけトランプ氏自身、国防長官の有力候補であることを明らかにした海兵隊退役将軍のジェームズ・マティス元中央軍司令官、国務長官候補の1人とされる同じく海兵隊出身のジョン・ケリー退役将軍、元陸軍参謀次長のジャック・キーン将軍、そして現役の国家安全保障局(NSA)の局長であり、テロ・治安対策を統括する国家情報長官の候補として取り沙汰されているマイケル・ロジャーズ提督らと面談した。
トランプ氏は特に、マティス将軍を「彼こそ将軍の中の将軍」などと称賛。「(けんか好きの)“狂犬”マティス将軍は非常に素晴らしかった」とツイッターでコメントした。同将軍の国防長官指名が一両日中にも発表されるとの見方も強まっている。
マティス将軍は2003年のイラク侵攻では第1海兵隊師団司令官を務め、国際テロ組織アルカイダ系の過激派からイラクの要衝ファルージャを奪還する作戦を指揮した。将軍は海兵隊だけではなく、米軍全体から尊敬を集め、議会の支持も受けており、上院の承認には大きな問題がなさそう。
トランプ氏は国家安全保障問題担当の次期大統領補佐官にマイケル・フリン中将をすでに任命しているが、米紙によると、将軍が多く求められているのは「自分の周りに強い男、威張っているような男をたむろさせるのが好み」という同氏の性行の一面でもあるようだ。
こうした将軍の多くに共通しているのは、オバマ大統領やオバマ政権の“嫌われ者”という点だ。例えばマティス将軍は、イランの核合意に反対し、イランへの強硬方針を主張したことで、中東を統括する中央軍司令官の職を早めに解かれたとされている。オバマ政権が推進したイラン核合意の障害になると見られたからだ、という。
次期大統領補佐官のフリン将軍も対イスラム強硬派だったことから国防総省情報局長を更迭された。ケリー将軍はオバマ政権のキューバ・グアンタナモ捕虜収容所の閉鎖に強く反対した人物だ。国防長官候補として政権移行チームと面談した元アフガニスタン駐留米軍司令官のスタンリー・マクリスタル将軍もオバマ大統領に解任された1人だ。
オバマ政権下で問題児とされた将軍らを登用しようというトランプ氏の動きはオバマ氏に対する公然とした当てつけでもある。ホワイトハウスの首席戦略官・上級顧問に任命されたスティーブン・バノン氏は米国がさらなる戦争に踏み切るかどうかを決断するためにも、「戦闘経験のある閣僚候補を探している」(ニューヨーク・タイムズ)と軍人起用の理由を説明している。