遡れば2010年、折しも日本は「冬のソナタ」の大ヒットとともに〝韓流ブーム〟に沸き上がるころ。その隣国韓国の政策面での文化事業の成功を模して、日本も負けじと文化輸出を掲げた「クールジャパン」構想を国家戦略として立ち上げるに至った。翌11年には、知的財産戦略本部が「クールジャパン推進に関するアクションプラン」を取りまとめた。
その内容は、「クール・ジャパン関連産業の市場規模を約4兆5000憶円(09年)から17兆円(20年)とすることを目指す」という、実に野心的なプロジェクトであったが、あれから7年ほど経過し、当初見込んでいた「クールジャパン」とは程遠い、悩ましい状態が続いている。
関係者から喝采を浴びた、大物漫画原作者の提言
13年4月、これといって具体的な成果の上がらないクールジャパン戦略において、業界や関係者が大きく状況が動くのではないかと見込んだ「事件」が、推進会議のポップカルチャーに関する分科会にて発生した。講談社と所縁の深い、大物漫画原作者の樹林伸氏がこの分科会でクールジャパンを取り巻く業界構造について鋭く論じたからだ。
樹林氏は、クールジャパンの根幹は日本文化をいかに売り込むかだけではなく、産業構造としてコンテンツを「育てる入口を作るということがまずすごく大事だ」と定義づけたうえで「現実の世界に落とし込んでいく」ことで発信地として機能させることの大事さを提言。それとともに、クリエイターの「労働環境の悪さみたいなものをなんとか解決できないか」という業界構造にメスを入れることを提言した。
これこそ、デスマーチありき、低賃金長時間労働を宿命づけられるクリエイター、プログラマー、デザイナーや漫画原作者にアニメーターといった、日本の誇るべきクールジャパンを支える若者たちの窮状をどうにか救えないだろうか、という内容だ。まさに政府が本腰でクールジャパンに取り組む場合に何よりも優先されるべき課題だったのである。
というのも、日本のコンテンツ産業はある種のブラック企業の集積ともいえる劣悪な作業環境と、どうしても絵が好き、アニメが作りたい、ゲームにかかわりたいと願う若者の体力と技術を低賃金で吐き出させ、それを積み重ねて企業に利益をもたらす業界構造が悪弊として定着してしまっている。