WEDGE REPORT

2016年12月1日

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風樹茂 (かざき・しげる)

作家、国際コンサルタント

作家、国際コンサルタント(kazakishigeru@gmail.com)。1956年、北海道生まれ。東京外国語大学スペイン語学科卒業。メキシコ留学後、中南米の専門商社を経て、南米アマゾンの奥地でODAプロジェクトの鉄道建設にかかわる。その後は、シンクタンク、研究所勤務などで、首相向けの政策提言、ODA援助、海外投資、NGOプロジェクトに従事。イスラム開発銀行のコンサルタントも経験し、30数カ国を踏査。石油関連事業でカタール、ベネズエラに駐在。

 不満渦巻く社会に突如現れる天才パフォーマー。選挙の合い言葉は、過去を取り戻す! 人類が何度も見てきた光景のひとつだ。それは歴史の仇花なのか? トランプ主義とアメリカの行く末を占ってみた。

 トランプが地滑り的勝利をする。私はそう確信した(後出しじゃんけんと思われると嫌なので、筆者のFacebookを見ていただきたい)。むしろ私と同じような複雑な気持ちを抱いていたのは、独裁者を抱いた経験のある途上国の人々であろう。とりわけ故チャべス大統領を抱いていたベネズエラの友人の半数は、私と同様にトランプが勝つと予測していた。

 なぜか? トランプは、16回の選挙のうち1度しか負けなかったチャべスと瓜二つだからである。

 チャべスは独立の英雄ボリバル主義の復権を唱え、自らをその再来と自認した。そして汚い言葉で叫んだ。「ブルジョアジーを叩きだせ!」「大統領官邸の腐敗分子も叩き出せ!」「革命あらずんば死だ!」「ヤンキーのくそ野郎!」「ブッシュは悪魔だ!」。チャべス信者たちは恍惚とした表情で彼の言葉を聞き、オウム返しに同じ言葉を叫んだ。

ベネズエラ・カラカスのスラム街
 

教祖は歌い、踊り、きわどい冗談をいい、同じ言葉を何度も繰り返す

 敵が誰かを明示し、心の底に眠る憎悪の炎を滾らせる。教祖は歌い、踊り、きわどい冗談をいい、同じ言葉を何度も繰り返す。それは嘘でも本当になる。ツィッターも使う。視聴率競争のテレビは、宣伝費無料でその様子を流す。チャべスは、大統領であり、俳優であり、コメディアンであり、歌手であり、野球選手でもあった。政策などどうでもいい。スターなのだから。痛快だ! 溜飲が下がる。これぞ、おらが大統領! コアの信者の周りには、それに共感する人々が何倍もいる。

 さて、トランプとその信者は? 「クリントンを牢屋にぶちこめ!」「ワシントンのヘドロをかき出せ!」「イスラム教徒を入れるな!」「メキシコ人は強姦魔だ!」「国境に壁をつくれ!」「マスコミを叩き出せ!」

 集会に集まる男女が恍惚と顔を火照らせているのを見て、私は既視感を覚えたのである。しかもチャべス派もトランプ派も同じ赤い帽子をかぶっている。共和党の赤とチャべス派の赤は目立ち、攻撃的である。サッカーの試合で同等の力のチームが対決したした場合、赤のほうが勝つという研究さえある。

 実は、トランプは以前民主党側でカーター財団に寄付をしている。そのカーターはチャべスが存命の頃、ベネズエラの選挙に監視団として訪問し、「選挙に不正はない!」と大見えを切ったものだ。さらに、トランプはミス・ユニバース協会を通して、ベネズエラの財閥と懇意にしていたのだから、裏庭のカリブ海の国の天才パフォーマーの選挙必勝法を学んでいても不思議ではない。

 では、チャべスに14年間も率いられたベネズエラはその後一体どうなったのだろうか? 奈落の底に落ちた。社会は一層分断され、犯罪は猖獗を極め、経済は破壊され、マスメディアは殺され、インフラはずたずたになり、国民は飢えている。偉大さを取り戻すどころか、取り返しがつかなくなってしまった。

 もちろんアメリカとベネズエラは違う。規模も国の成り立ちも全く別である。北アメリカには何かを作り上げるために人々が移民したが、中南米、とりわけベネズエラは、大地を収奪するのが目的だった。その代わり、米国と違い人種間の垣根は低く、肌の色による葛藤はほとんどない。

 また、チャべスには原油という打出の小槌があった。政権についた99年はバレル16ドル以下だったのに、2012年には100ドルを越えた。だがトランプには原油に当たるものがない。偉大なアメリカを取り戻すには資金がいる。徴税、関税、米国債により生みだすしかない。

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