幅広い視野に立った興味深い分析です。ラックマンは、ティラーソンの議会証言、台湾、貿易の3つ(3つのTと呼ぶ)に着目し、トランプの下で米中は衝突に向かっていると警告します。確かにリスクを過小評価してはなりませんが、クリントン政権、オバマ政権が失敗したように、政権の初めに過度にソフトな信号を中国に送ることは避けるべきであり、適切な強い信号を送っておくことは悪いことではありません。トランプ政権が無原則なディール外交に陥る危険があると考えれば尚更でしょう。
ラックマンは、南シナ海で海上封鎖も辞さないような強い立場を示したとティラーソン証言を強く懸念しています。しかし、議会証言でのティラーソンの中国観には、むしろ安堵できます。問題は、ティラーソン流の考えが今後トランプとの上下関係の中で如何に勝ち残って行くかではないでしょうか。何時までもトランプ(側近を含む)と閣僚の考えが相違したままにしたツー・トラック政治で行くことはできません。
人工島へのアクセスを認めない
人工島へのアクセスを認めないとのティラーソンの発言をラックマンは懸念しますが、アクセスを黙認することもできません。南シナ海の軍事化は政策としても支持できませんし、また習近平の公的宣言にも違背するものです。望むべきは中国が早く国際社会での生き方を学ぶべきことではないでしょうか。
ラックマンの第二の懸念は、台湾政策の転換です。これについてはトランプ側に少し慎重な取り扱いが必要であるようにも思われます。台湾問題は、台湾と中国が平和的に解決すべき問題であり、解決策が見えなければ、辛抱強く現状を維持する他ありません。
ラックマンの第三の懸念は貿易です。米中貿易の規模などを見れば、米国にとって対中貿易問題は避けて通れない問題ですが、トランプの考えは出口がない乱暴な議論です。そもそも二国間で均衡を取ろうというのがおかしいのです。WTOを離脱すれば関係なくなりますが、新規課税については、セーフガードなどのために許される範囲を超えて取ることはWTO違反です。また、中国からの輸入品が高くなれば米国の消費者が被害を受けることになります。
トランプを支持してきた人々が一番被害を受けるかもしれません。また、共和党の支持基盤の産業界の利益も損なわれるでしょう。短期的にはともかく、中長期的にはそのような措置は米国の利益に反し、多くのものを失うでしょう。トランプ政権が早く実態を理解し、ルールに従って現実的に米の利益を最大化する方途を見出すことを望みたいものです。一方的、個別戦術的、圧力経済外交が解決策ではありません。
▲「WEDGE Infinity」の新着記事などをお届けしています。