風の谷幼稚園 3歳から心を育てる

2010年4月29日

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野村 滋 (のむら・しげる)

株式会社コンテンツ・ファクトリー代表

情報誌会社勤務時代に取材で、創立間もない風の谷幼稚園と出会う。その後12年間、風の谷幼稚園の変遷を追い続けている。風の谷幼稚園の教育実践記『4歳の胸のうち』『5歳の誇り』を同社から出版。

 この2つの理由のうち、(その1)についてはご理解いただきやすいだろう。これについては後述するとして、(その2)の「昔の人の生活ぶりに関心を持たせる」という狙いは、単に教養を高めるために歴史への関心を喚起するということに留まらず、風の谷幼稚園が育てようとしている人間像と大きく関わっている。では、その人間像とはどのようなものだろうか?

 結論からいうと、「いのちのつながり」を意識できる大局観と、それから導き出される美意識を持った人間を育てるということだ。

 人間は過去の「いのち」を引き継いで存在し、また未来に「いのち」を引き継いでいく存在だ。言われてみれば当たり前の話なのだが、「個人」が重視される現代の社会では忘れられやすいことでもある。その結果、まるで過去や未来とは無縁に自分が存在しているような感覚を、無意識のうちに持ってしまいやすくなる。

園児たちが今回演じることとなった『島ひきおにとケンムン』(山下明生・階成社)。
後述するが、子どもたちがこの話の奥深さをきちんと理解していることに驚かされる。

 そこで、風の谷幼稚園では日本の創作民話を通じて、自分たちの「いのち」の源泉にあった昔の人の生活に思いを巡らせる機会を創り出している。さらには、過去の延長線上にある現在はもちろん、自分の「いのち」が引き継がれた未来にも関心を持てる人間に育ってほしいと考えている。この大局観から導き出される良識と責任感。それに裏打ちされた思考力と行動力。これを子どもたちの中に育んでいきたい。こんな思いを胸に秘めて、先生たちは子どもたちと「劇作り」に取り組んでいる。もちろん、このような「想い」が子どもたちに語られることはないが、教育者の「想い」は子どもたちの心にきっと「何か」を残しているのではないだろうか。

 つまり、風の谷幼稚園はノスタルジー(郷愁の念)や過去からの惰性で日本の民話を劇の題材としているわけではない。ここには明らかな教育意図と根拠があり、その題材として適切であると判断をした日本の民話を劇の題材に採用しているのである。

登場人物への感情移入が
「思いやりの心」を育てる

先生たちの丁寧な指導によって、子どもたちは登場人物の心情に寄り添えるようになる。
それによって自然と演技力が身につき、完成度の高い劇へとつながる。卒園前の大きなイベントを通じて、園児はまた一回り成長する。

 さて、話が少々哲学的になってしまったが、ここからは再び子どもたちの成長の場面を見ていこう。(その1)の登場人物に感情移入し心の動きに関心を持つことで子どもたちにはどのような変化が生まれるのだろうか? まず、感情移入をするだけなら、読書でもその状態を経験させることはできるかもしれない。しかし、劇として演じることに意味があるという。

 「幼児が物事をより深く理解するには、体感するという行為が必要だと思うのです。本を読むのはアタマの中だけの世界ですが、その本の世界を実際に演じてみることで、子どもの心は大きく揺れ動き、それが本に描かれている世界の理解を助けることにつながります」(天野園長)

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