嵐の翌日、村を捨てる覚悟を決めた村人たち。
「村人たちは、このとき、どう思っているのかなぁ」と聞くと、
「木を切った“たたり”だと思っている」
「ケンムンの木を切らなければよかったと思っている」と、子どもたち。
「どうして、切らなければよかったと思っているの? 気味が悪いからって切ることに決めたんだよね?」とさらに聞いていくと
「木を切らなければ、嵐が来ても風をよけてくれたのに、切っちゃったからもっとすごいことになっちゃったから(嵐で村が壊された)」
「もう村には住んでいられないなぁって思っている」
「また今度嵐が来たら、もう村は本当に吹き飛ばされちゃうから、村を出て行かなきゃと思っている」などと出てきました。
その後、演じてみると・・・
「木を切らねばよかったなぁ・・・」
「あの木はおらたちの村を風から守ってくれてたんだなぁ」
「だけど、おらたちは自分たちで切っちまった」
「また嵐が来たら、もうとんでもねぇことになっちまう」
「仕方がない、この村には住んでらんねぇなぁ」
というようなセリフが(子どもたちの創作によって)生まれてきました。
こんなふうに、登場人物の気持ちを探ることで、その気持ちを理解し、それが村人の会話として成り立ってきています。 風2組 学級通信「麦」より
今回は「劇作り」のカリキュラムの後編をお伝えしていこう。冒頭のエピソードは「劇作り」の過程の様子だが、先生のきめ細かい問いかけに応じて考え、そして自分の思いをセリフにしていく子どもたち。それがまるで現実の会話であるかのように演じられていく。では、風の谷幼稚園ではこのような劇の指導を通じて子どもたちに何を教えようとしているのか。その内容を詳細に見ていこう。
日本の創作民話を
題材にする理由とは?
前回の密着レポート・前編で、年長児クラスになった子どもたちは単純に“面白おかしい”話ではなく喜怒哀楽のあらゆる感情が含まれた奥深い話に興味を示すようになることを紹介した。これは子どもたちの心が成長した証だが、「劇作り」においてはこの心をさらに大きく成長させることが強く意識されている。
そこで、まず重視されるのが劇の題材選びだ。風の谷幼稚園の「劇作り」の題材は、絵本化された日本の創作民話である。これにはもちろん理由がある。2009年度の「劇作り」の資料には、創作民話を題材に使う理由として以下の2つが記されている。
(その1)
民話(創作民話)は登場人物の“人となり”が解りやすいこと。また、物語の流れが喜怒哀楽で綴られているので、子どもたちが感情移入しやすく、表現しやすいこと。
そのため、演じながら登場人物の“心の動き”に関心をもって表現をしていくことができる。
(その2)
物語を通して、昔の人の生活ぶりに関心を持たせることができる。大道具、小道具を操作することで、よりリアルに昔を感じ取らせることができ、人間の歴史に関心を持つ第一歩とすることができる。