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2017年2月17日

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小泉悠 (こいずみ・ゆう)

財団法人未来工学研究所客員研究員

1982年生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了。民間企業を経た後、2008年から未来工学研究所。09年には外務省国際情報統括官組織で専門分析員を兼任。10年、日露青年交流センターの若手研究者等派遣フェローシップによってモスクワの世界経済・国際関係研究所(IMEMO)に留学。専門は、ロシアの軍事・安全保障政策、軍需産業政策など。著書に軍事大国ロシア』(作品社)、『プーチンの国家戦略』(東京道堂出版)『ロシアの軍事情報を配信するサイト「World Security Intelligence」(http://wsintell.org/top/)を運営。

欧州最後の独裁国家

 ベラルーシという国の存在感は日本ではあまり高くない。

 旧ソ連のヨーロッパ部に位置する国で、東はロシア、西はポーランド、北はリトアニアとラトヴィア、南はウクライナに面している。国土面積は20万7600平方kmと日本の半分ほどだが、人口は約950万人に過ぎない。我が国との貿易額は年間40億円にも満たない額であり、影が薄いのも無理からぬところだろう。

(iStock)

 ベラルーシではルカシェンコ大統領が1994年以来の長期政権を築いており、これを指して「欧州最後の独裁国家」などとも呼ばれる。これが日本で最も流布しているベラルーシのイメージかもしれない。

 一方、ベラルーシと圧倒的に深い関係にあるのがロシアだ。同じ旧ソ連諸国であったというだけでなく、言語(ベラルーシ語はスラブ諸語の中でも特にロシアに近い)や宗教(ベラルーシ正教会はモスクワ総主教庁の一教区とされている)面でも両国の距離は近い。

 軍事的にはロシア主導の軍事同盟である集団安全保障条約(CSTO)に加盟しており、相互防衛義務を負う。しかも、ロシアとベラルーシは1999年に連合国家協定を結んでいるので、連邦未満ではあるが単なる同盟国以上という関係にある。

漂流する「連合国家」

 ところが、その実態は極めて不安定なものだ。ことに近年では、その傾向が強まっている。

 たとえば昨年末、ロシア主導の経済同盟であるユーラシア経済連合の首脳会合にベラルーシのルカシェンコ大統領は出席せず、予定されていた共通関税法典への署名も行われなかった。ロシアはベラルーシの対露債務5億5000万ドルが返済されていないことを理由にベラルーシに対する原油供給を削減することを決定しているほか(ロシアから供給される安価な原油を精製して輸出することで外貨収入を得ている)、ベラルーシが欧米との関係改善を図ろうとしていることに懸念を示しており、こうした政治・経済的摩擦がその直接的なきっかけと見られる。

 今年2月には、ロシアの情報機関である連邦保安庁(FSB。国境警備隊を傘下に置いている)がロシアとベラルーシの国境に検問所を設置したことが新たな摩擦の種になった。

 それまでロシアとベラルーシの国境ではパスポートコントロールは実施されておらず、EU内のように自由に往来することが可能であった。ところが今年1月、ベラルーシが世界80カ国(日本もそこに含まれる)とのビザを撤廃したことで、ロシア側が安全保障上の懸念を提起したのである。ベラルーシとロシアが国境を開放しあった現状でビザを撤廃すれば、ベラルーシ経由で望ましくない人物がロシアに入国してくる可能性があるためだ。

 ロシア側の言い分には一理あるにせよ、「連合国家」を謳いながらこうした基本的な問題ですり合わせができていなかったことをこのエピソードはよく示している。

 ちなみにロシアが導入した検問所はパスポートコントロールではなく、ロシアにビザなしで入国できない国民だけを選別するものであるようだ。しかし、ベラルーシ外務省は検問所の設置に関してロシア側から事前の通告がなかったとしており、ルカシェンコ大統領もこれを「政治的攻撃」と呼んでロシア側を厳しく非難している。

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